えん罪を主張する被告と、強制された疑いのある自白、そしてねつ造された可能性のある物証を前に苦悩する裁判官。『BOX 袴田事件 命とは』は、司法が抱える様々な問題を浮き彫りにした実際の事件・袴田事件を描いた作品だ。この映画の完成披露試写会が、5月18日に有楽町朝日ホールで行われ、高橋伴明監督とキャストの萩原聖人、新井浩文が舞台挨拶に登壇した。
[動画]『BOX 袴田事件 命とは』予告編
『BOX 袴田事件 命とは』場面写真
8月26日より開催されるモントリオール世界映画祭ワールドコンペティション部門に出品されることが決まった本作。同映画祭では、『おくりびと』がグランプリを、『ヴィヨンの妻〜桜桃とタンポポ〜』が最優秀監督賞(根岸吉太郎監督)を受賞するなど、日本映画の受賞が相次いでおり、本作への期待も高まっている。監督は、「このような問題提起が前面に出ている映画を選んでくれたことを、素直に喜びたい」と語る一方、「日本の司法行政の実態を知ってほしい。人間の危うさや間違いをおかすということをアピールしたい」と抱負を述べた。また、「後は禁煙対策です」と苦笑いし、長時間のフライト中に煙草をガマンしなければならないことを心配していた。
本作で、袴田の無罪を確信しながらも合議制のために死刑判決文を書かなければならなくなり苦悩する判事を演じた萩原は、「僕のキャリアでは決して伝えきれない憤(いきどお)りや苦しみを背負った役だったので、体当たりして、監督の胸に飛び込む思いで演じた」と、役の重みについて語った。
この日は、袴田巌死刑囚の姉・袴田秀子さんと、裁判の主任判事だった熊本典道さん、えん罪の被害者である免田栄さんも登壇。熊本さんは、「袴田君は、無罪だと思っています」と断言。絞り出すような声で、袴田被告を獄中から救うために力を尽くしたいと話していた。
また、免田さんは、無実を勝ち取るために34年間戦ってきたと辛苦の日々を振り返り、「日本では立派な司法行政が行われていると思っている人が大半を占めると思うが、証人隠しが公然と行われ、司法と戦わなければ人権が守られない“法治国家”であるということを考えてください」と語りかけた。
映画について監督は、「ワクワクするような冒険活劇でも、はらはらと涙する心洗われるような作品でも、腹を抱えて笑える作品でもなく……すごく重い映画です。でも、こういう映画があるべきだと思い作りました。1人でも多くの方に見ていただくべき作品だと思っています」と話していた。
『BOX 袴田事件 命とは』は、5月29日より渋谷ユーロスペースほかにて全国順次公開される。
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