名優・仲代達矢が、長い役者人生のなかでも5本の指に入る脚本だと惚れ込み、主演を熱望した映画『春との旅』。年老いた頑固な漁師と孫娘の旅を通じて、生きることの哀しみ、そしてかすかな希望を描いた作品で、最近の映画ではめずらしい真摯な感動をもたらす傑作だ。この映画が5月22日に公開初日を迎え、仲代をはじめ、キャストの徳永えり、淡島千景、柄本明、美保純、そして小林政広監督が、新宿バルト9で舞台挨拶を行った。
[動画]『春との旅』初日舞台挨拶/仲代達矢、徳永えりほか
『春との旅』徳永えりインタビュー
あまりに地味な内容のため資金集めに苦労したという本作。これまでの試写会舞台挨拶では「こんなに多くの人に無料で見せてしまって大丈夫か……」と心配していた監督も、この日は、ちゃんとチケット代を払って見に来てくれた観客を前に感無量の様子。なんとなく目を潤ませているようにも見え、「今日はたくさんの方に見に来てもらい、本当にうれしいです。掃除のおばさんしかいなかったらどうしようと思ってたんで」と笑顔を浮かべていた。
柔軟な精神を持ち、若手からの尊敬を一身に集めている重鎮・仲代。本作で演じたのは、彼と対局にあるような、身勝手で頑固で嫌われ者の老人だが、この役柄について仲代は「私も頑固ですが、人に迷惑はあまりかけたくない」と違いを強調。だが、「本音は、人に迷惑をかけても思い通りにやりたい」と明かし、「だからこのお話をいただいたときは、思いっきりわがままにできると思いました」と振り返った。
そんな主人公にモデルはいるのかと聞かれた監督は、「うちの親父がわがままな人で、博打も、人に迷惑をかけるのも好きで、ずいぶん勝手放題やってきた人でした」と、自らの父親が念頭にあったことを告白。すると仲代も、自分の母親も同じようにわがままを貫いた人だと話し「この役ができたのは、母親の血かな」とニッコリ。また、「戦時中の飢餓状態のとき、明日食う米もないのに、夜中、近所のおばさんたちを集めておいちょかぶをやってるんです」と仲代が母親の思い出を語ると、監督も「うちもそうです」と言い、共感し合った様子。さらに仲代は「弟と2人で、ああいう親にはなるまいぞ、と誓い合った。反面教師ですが、一種の供養だと思い、演じました」としんみりと語っていた。
一方、そんな身勝手な主人公についての意見を求められた美保は、「後ろから抱きしめたい」と包容力にあふれた笑顔を見せた。そして、劇中のあか抜けない老人役とはうってかわり、この日は白いジャケットでバリっと決めた仲代を見て「今日は、ちょっとロン毛になっているのでセクスィーな感じ(笑)」と、いぶし銀の魅力にうっとりとした様子だった。
『春との旅』はこの日、全国約60館上映でスタート。劇場からの評価も高く、今後も上演館は増える予定で、配給元としては4億円の興行収入を目指すという。
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