今年2月に行われた第60回ベルリン国際映画祭で、寺島しのぶが銀熊賞(最優秀女優賞)を受賞し話題となった『キャタピラー』。『愛のコリーダ』のプロデュースや、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』の監督など、骨のある作品を作り続けてきた若松孝二の監督作で、戦争の愚かさや悲惨さをあますところなく描き出している。
舞台は第二次世界大戦下の日本の農村。戦地で負傷し、顔がやけただれ、四肢を失った姿で帰還した久蔵と、夫をかいがいしく世話する妻シゲ子の日常が綴られていく。村人たちから軍神とあがめられる一方、食欲と性欲だけが肥大したかのような毎日を送る久蔵。負傷のために言葉を発することもままならない久蔵とシゲ子の生活が、戦時の緊張のなかで次第に狂気を帯びていく様子に、戦争の狂気が重なって見える。
「戦争は単なる人殺しにすぎない」と断言する若松監督に、映画について、そして戦争、日本という国について話しを聞いた。
[動画]若松監督インタビュー
『CATERPILLAR キャタピラー』作品紹介
●『キャタピラー』製作のきっかけ
──この作品を作ろうと思ったきっかけは?
監督:『実録・連合赤軍〜』を撮影していたとき、あさま山荘に立てこもった若者が、なぜこういう行動に出たのだろうと思ったんです。良い学校に通い、それほど貧しい環境に育ったわけでもない子たちが、どうしてああなったのか……。当時の日本は、ベトナム戦争などの余波で、どんどん再軍備をしていっている時期。彼らは、敗戦の反省もしないまま、かつて来たのと同じ道を辿ろうとしている日本という国に対して立ち上がったんじゃないかと思ったんです。
だとすると、彼らの親の世代を撮らないといけないんじゃないか、と。
──帰還兵の妻・シゲ子を主人公にしたのはなぜですか?
若松:日本の戦争映画というと、友情や国家への思い、英雄たちの姿を描いた美しい話ばかり。でも、戦争はただの人殺しであって、国家のためや平和のためのものではない。そういったことを伝えたいと思ったのですが、予算がないので、戦場の撃ち合いを撮るわけにもいかない。で、“銃後”を撮ったらどうだろうということで、今回の映画になったんです。
●国会議員なんて信じちゃいけない
──銃後の守りのために、竹槍でかかしを刺して訓練する村人たちの姿が描かれていますが、あのシーンで訴えたかったことは?
監督:終戦のとき、僕は小学校3年生でした。小さい頃は、村の婦人会の人たちが一所懸命、竹槍やバケツリレーの訓練をしているのを見て、敵が来たらそれで殺せるんじゃないかと思っていました。
でも、実際に空襲が始まると、焼夷弾を落とされ、全ては焼け野原になってしまう。バケツリレーなんかで火を消せるわけがないんです。ましてや竹槍なんて。
つまり、国家が国民をだましたんです。だから、今でも僕は、国をあんまり信じちゃいけないと思っている。国会議員なんて信じちゃいけない、疑ってかかったほうがずっといい、僕はそう考えています。
──昨年、政権交代がありましたが、今の日本についてはどう思いますか?
監督:例えば、鳩山政権になったのだから、各県に原爆記念館を作るとか、子どもたちに原爆の恐ろしさを教えるとか、もうちょっとそういうことをしたらいいと思うんです。
それから、普天間の基地問題についても、必要だったら東京湾に作ればいいじゃないですか。東京には天皇も総理大臣も、つまり守ってもらいたい人がいる。ならば、守ってもらいたい人がいる場所に作るのが一番。なぜ、壊滅状態になるほど大変な思いをした沖縄に、基地を押しつけたままにしておくのか。
政治家はもっと戦争のことを勉強してほしい。そして、もっと国民のことを考えろ、と。ちょっとキレイな子だから選挙に出せば通るとか、ちょっと名前があれば通るとか、そんなことばっかり考えてるわけでしょ? それで本当にお前ら政治家なのか、と。
選挙民ももっと勉強したほうがいいと思いますよ。ちょっといいこと言われると、ズラ〜っとそっちに流れていく。だまされてバカみたいだよね。
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