閉幕式の舞台は“密”ながらも、無事に終了した第74回カンヌ国際映画祭

第74回カンヌ国際映画祭が17日(現地時間)に閉幕、日本の濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が脚本賞を受賞、フランスのジュリア・デュクルノー監督の『Titane(原題)』が最高賞のパルム・ドールを受賞した。女性監督の同賞受賞は史上2人目。

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大江祟允と共同で『ドライブ・マイ・カー』の脚本を執筆した濱口監督は「メルシー・ボークー」とフランス語で一言日本語でスピーチし、「最初にお礼を申し上げなくてはいけないのは、この物語を我々の映画に与えてくれた原作者の村上春樹さんです」と感謝を述べ、共同執筆者について、「大江さんと僕の関係は奇妙なもので、大江さんも脚本家なのですが、大江さんは僕にひたすら書かせるタイプの脚本家でした。大江さんはいつも読みながら、『本当に素晴らしい』『このままやりなさい』と言ってくれました」「彼がずっと励まし続けてくれたから、この物語を最後まで映画として書き切ることができたと思います」と語った。

監督は「脚本は映画には映っていないわけなので、それを表現する役者たちが素晴らしかったからだと思います。役者たちこそ私の物語だと思っています」とキャスト1人1人の名前を挙げ、スタッフを讃え、「もしよろしければ、今ここで海の向こうにいるこの役者、そしてその役者を支えてくれたスタッフの皆さんに大きな拍手を皆さんから送っていただけたら、ありがたいと思います」と結び、会場は大きな拍手に包まれた。

ドライブ・マイ・カー』は脚本賞の他に、国際映画批評家連盟(FIPRESCI)賞、フランスの独立興行主の連合組織より授与されるAFCAE賞、エキュメニカル審査員賞も受賞した。

一方、1993年のジェーン・カンピオン監督(『ピアノ・レッスン』)以来、28年ぶりに女性監督として最高賞を受賞したデュクルノー監督の『Titane(原題)』は公式上映されるや、その衝撃的な内容で一気に注目が集まった。事故の後遺症で頭蓋骨にチタンを埋め込まれ、性嗜好が「車」になった女性の物語で、非常に暴力的なシーンが多く、プレス向けの上映では退席者が続出したという。

実は授賞式の冒頭で、審査員長のスパイク・リーが誤ってパルム・ドール受賞作を発表するというアクシデントが発生した。「最初の賞(first prize)を発表してください」という司会者の言葉を「1番の賞(first place)」と誤訳されて、最高賞発表と勘違いしてしまったそう。

正式にパルム・ドールが発表される時点で、自らの受賞は心得ていたデュクルノー監督だが、感激の面持ちで「今夜は完璧です。なぜなら、完璧ではないから」とリーの失態さえも喜ばしい事態として受け止め、「モンスターを受け入れてくれてありがとうございます」と涙ながらに受賞した。

リーはセレモニー後の記者会見で「言い訳はしません。台無しにしてしまった。私は大のスポーツ・ファンです。試合の最後にファウルラインに立って、フリースローを失敗したり、キックをミスするようなものです」とバスケットボールやサッカーの選手に例えて説明、「カンヌの人々に謝罪しました。彼らは『忘れてください』と言ってくれました」と語った。

パンデミックにより昨年は中止となり、2年ぶりとなった映画祭には例年以上に質の高い作品が集まり、受賞の顔ぶれも多岐にわたった。

グランプリはイランのアスガル・ファルハディ監督の『A Hero(英題)』とフィンランドのユホ・クオスマネン監督の『Apartment No.6(英題)』、審査員賞はイスラエルの検閲をテーマにしたナダヴ・ラピド監督の『Ahed’s Knee(英題)』、タイのアピチャッポン・ウィーラセタクンの『Memoria(原題)』がそれぞれ受賞。

女優賞はノルウェーの『Verdens verst menneske(原題)』のレナーテ・レインスヴェ、男優賞は『Nitram(原題)』のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが受賞。

監督賞は、映画祭のオープニング上映作でアダム・ドライヴァーマリオン・コティヤールらが出演した『Annette(原題)』のレオス・カラックス監督が受賞した。

監督新人賞に当たるカメラ・ドール賞はクロアチアのアントネータ・アラマット・クシヤノヴィッチ監督(『Murina(原題)』)が受賞した。

世界はまだパンデミックの影響下にあり、カンヌ国際映画祭も通常の5月ではなく、バカンスシーズンが始まった7月の開催となった。ワクチン未接種の参加者には48時間ごとの検査が課せられるなど、条件つきながらも最後まで無事に開催できたことは喜ばしい。

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