外国人記者クラブ会見で、山田洋次監督が日本映画界の問題点を指摘
山田洋次監督と立命館大学映像学部の学生が制作した映画『京都太秦物語』の記者会見が、9月9日に外国人記者クラブで行われ、山田監督と共同監督の阿部勉が出席した。
京都太秦の大映通り商店街を舞台に若者たちの夢、恋愛、人間模様などを描いた作品で、物語のなかに商店街の人々のインタビューが挿入されるなど、ドキュメンタリーとドラマを融合させる新しい試みも取り入れた意欲作。今年2月の第60回ベルリン国際映画祭(フォーラム部門出品)や第34回香港国際映画祭(Master Class部門招待)でも上映され、好評を博した。
会見で山田監督は、3年前に阿部監督と一緒に立命館大学映像学部で講義したことが本作制作のきっかけだったと語った。どうやったら“映画作り”について教えることができるのかと悩んだ末、「作りながら教えなければならないと思いました」と山田監督。また、「この作品は、学生たちが卒業制作に作るようなものと違い、少ないとはいえかなりの予算を必要とする作品で、必ず小さな劇場やホールで入場料をとって上映する作品だというコンセプトで作りました」とも話していた。
一方、阿部監督は若者たちと共に作業したことについて、「今の学生はコミュニケーション能力が落ちていると思っていましたが、今回の作品を通じて、道筋を導いてあげればきちんとやってくれると思いました」と振り返り、「例えば、映画に出てきた、豆腐屋のお母さんたちと20歳の学生が話をする光景は、スーパーマーケットで買い物をする今の社会では見られません」と、若者たちのコミュニケーション不足には社会的仕組みも一因であることを示唆。「彼ら(若者たち)も初めて商店街の方々と話をしたと思うのですが、撮影を通して商店街の人々と溶け込み、作品のなかに登場する商店街の様々なエピソードも彼らが拾い上げてくれました。私たちが教えて彼らが学んだという関係ではなく、彼らもスタッフの一員として自らができることをやってくれました」と、若いスタッフを讃えていた。
山田監督も「東京と京都という土地柄に若者の違いがあるかもしれませんが、一緒に制作を行った学生は良い若者ばかりでした。彼らと一緒に勉強し、撮影をすることがとても楽しかったですね。2〜3ヵ月の撮影の間に彼らは刺激を受け、よく学んでくれました。もし、私が大きなプロダクションの社長なら全員採用してあげたいくらいです」と、映画作りを共にした若者たちをねぎらった。
山田監督によると、本作は、今は亡き映画評論家・小森和子からの寄付を使った作品でもあるという。このことについて山田監督は「20年以上前の話ですが、テレビ番組で、(人材育成の仕組みが損なわれているので)このままでは若い人材や日本の映画界が育たなくなる。だから、日本の映画界がとても心配だと語ったことを映画評論家の小森さんが聞いていらっしゃいまして、そんなに大変なら私の貯めたお金を使ってくださいと寄付してくださいました」と説明。当時はどう使えばいいのか分からなかったというが、「この企画を立ち上げた際に、寄付金を使う良い機会だと思い、使わせていただきました。それゆえに、最後に小森さんへのオマージュを書かせていただきました」と話していた。
最後に山田監督は、「映画はたくさんの人々が関わっているもの。(今も)監督や脚本家は育つけれど、カメラや照明などはどうやって育つのか。一生を映画に捧げるためのシステム作りが、今の日本の映画界の大きな課題だと思います」と、映画界の問題点を踏まえた言葉で会見を締めくくった。
『京都太秦物語』は9月18日より東劇ほかにて順次公開される。
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