青野真悟監督と大久保英樹監督が手がけた新作の音楽ドキュメンタリー映画『芸術家・今井次郎』が、今秋に公開されることが分かった。劇中で描かれる今井の半生を通じて、現代社会に一石を投じる。
・マヤ文明の謎に迫る、生け贄の遺骨眠る地下洞窟は本当に実在するのか?
没後9年 今なおSNSで発見され続ける男・今井次郎
今井は戦後7年目の1952年に生まれ、手塚治虫に熱狂し、ビートルズを同時代で体験した。そうして「最先端のものが、一番売れて支持される」という思いを抱きながら表現を始める。1980年代初頭、東京のパンク/オルタナティブ音楽シーンで伝説になったバンド「PUNGO」のキーマンとして登場。数々のバンドで音楽活動を行う。
一方で演劇活動も継続。現在も活動中の「時々自動」の音楽・出演を最後まで続けた1990年代半ばからは「JIROX(ジロックス)」名義で、ありあわせの(ゴミのようなとも言われる)素材で作ったオブジェや絵画を発表。自分の作品を使ったパフォーマンス「JIROX DOLLS SHOW」で美術家や若者たちの支持を集めた。
こうした経歴や作品に含まれるポップさから一般的に使われるかもしれない「マルチアーティスト」という言葉は、実は彼にはなじまない。実際の今井を探っていくと、むしろ「いつどんな形であっても自分自身を表現せざるを得ない」という古典的な「芸術家」の姿が浮かび上がってくる。その最たるものが、(悪性リンパ腫による)死に先立つ半年間の入院生活中に膨大に残された作品だ。
ノートの端や薬の袋、献立表など様々な紙片に走り書きされていた譜面、ツイッターなどに発表し続けたシュールな回文、描き続けた絵、作り続けたオブジェ、彼の死の当日が初日となってしまった時々自動の公演での新作曲。死への意識の迫力を伝える一方、その中で作られたものの「自由さ」は見る者聞く者の心を揺り動かす。死に先立つ半年間の入院生活中、がん病棟の病院食を使って表現したポップアート「ミールアート」は日々継続され、SNSで発信された。没後9年が近づく今も、ユーモアや美しさや残酷さが一体化したパフォーマンスがYouTube などSNSで再発見・再評価されている。
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なぜ今「今井次郎」なのか?
『芸術家・今井次郎』は、7組のアーティストが参加した「
青野監督は「今井次郎さんへの憧れは、今も多くの人が抱き続けている。この映画でさらに伝播するように願っている」とコメント。大久保監督は「コロナ禍が続き、生活が大変な日々。でも、だからこそこの映画で『幸福になる自由』を感じてほしい」とメッセージを送っている。
競争や消費に追われる生きづらい社会と、追い打ちをかけるようにコロナ禍が長引く昨今、生活そのものに疑問を感じる中、今井自身や今井の作品の力は「生産性とは無縁のなもの、不要不急なもの、役に立たないもの」の大切さを問うことになりそうだ。
映画『芸術家・今井次郎』は、10月30日より全国順次公開。
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