世界中を魅了した大ヒット作の裏側に迫るNetflixドキュメンタリー

【週末シネマ】80年代半ばから90年代にかけて、世界中で大ヒットしたハリウッド映画の人気作の舞台裏を紹介するドキュメンタリー・シリーズ『ボクらを作った映画たち』のシーズン2が、2021年7月23日からNetflixで配信されている。

今回も、同時代の大ヒット作4本『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下、BTTF。監督/ロバート・ゼメキス)、『プリティ・ウーマン』(監督/ゲイリー・マーシャル)、『ジュラシック・パーク』(監督/スティーヴン・スピルバーグ)、『フォレスト・ガンプ 一期一会』(監督/ロバート・ゼメキス)が取り上げられ、各作で成功の立役者となった関係者たちの証言から、誰もが知る大ヒット作の裏に隠された、完成までの涙ぐましい努力に迫る。

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これまでにも発言の機会の多かった監督や主演俳優よりも、あまり表に出ずに裏で尽力したスタッフたちの功績にフォーカスしているのも注目点だ。

昨年にコロナ禍が始まった直後、YouTubeなどでチャリティ企画として、往年のヒット映画やドラマの同窓会企画が大流行した。Zoomを使ってキャストやスタッフが一堂に会しての思い出話も楽しいが、本作は時間をかけて取材した素材で構成され、より濃密な秘話が聞ける。

映画好きなら既に承知の内容がほとんどだが、当事者たちが当時の経験をいきいきと語る様は、文字で読むのとは比べ物にならない臨場感がある。

CGI黎明期に恐竜たちを大画面に登場させたスピルバーグ

『BTTF』では、あまりにも有名な主演交代劇(エリック・ストルツで撮り始めたが、すぐに降板。もともと第一候補だったマイケル・J・フォックスがマーティ役に)をはじめ、キャラクターやタイムマシン、タイトルまで、細部の変遷が明かされる。

『BTTF』のプロデューサーだったスティーヴン・スピルバーグが監督した『ジュラシック・パーク』は、映画におけるCGIの黎明期に恐竜たちを大画面に登場させた。リアルな動きを初めて見た90年代の観客は、19世紀末にリュミエール兄弟が発表した『ラ・シオタ駅への列車の到着』で画面いっぱいに広がる列車に驚嘆した往時の観客と似た感覚を味わったはずだ。新時代の実現のために、ストップモーション・アニメの巨匠、フィル・ティペットとVFX制作会社「I.L.M.」の若きデジタル・アニメーターたちが繰り広げた攻防と切磋琢磨、ロケ先のハワイでのハリケーン襲来など、撮影裏話のスケールも大きい。

期待されていなかった『フォレスト・ガンプ/一期一会』が名作に

アカデミー賞で作品賞をはじめ6部門を受賞した『フォレスト・ガンプ/一期一会』は、当初スタジオ側から全く期待されず、製作費もかなり抑えられたなど、今となっては信じがたい制作時の紆余曲折や、「人生はチョコレートの箱」という名台詞の誕生秘話、トム・ハンクスの意外な役作りなども明らかになる。

製作の裏話以外にも、ベトナム戦争で両脚を失ったダン中尉を演じたのをきっかけに、ゲイリー・シニーズが基金を設立し、傷痍軍人たちをサポートする活動も紹介する。

スピルバーグやゼメキスの、事態に臨機応変に対応しつつもヴィジョンを貫く姿勢、スタジオ重役との付き合い方など、ハリウッドの処世術も興味深い。

ロマコメの傑作『プリティ・ウーマン』のダークな結末についての秘話も

シーズン2の4エピソード中、3本がスピルバーグとゼメキスの作品について、という中で異彩を放つのは、ジュリア・ロバーツの大ブレイク作となったロマンティック・コメディの『プリティ・ウーマン』だ。

まだ無名だったロバーツが、同世代のスター女優たちを退けてヒロイン役を勝ち取った過程、同じく無名の新人だった脚本家のJ・F・ロートンが脚本のリライトに苦戦した話などが語られる。

ヒロインのヴィヴィアンはコールガールで、もともとのタイトルは『Three Thousand』。彼女を雇おうと、実業家(リチャード・ギア)が提示した契約料3000ドルを示すもので、オリジナルの結末は完成作よりもずっとダークなものだったというのは有名な話だが、ロートンが明かしたエンディングは巷でよく知られた説の、そのさきがあった。こちらの脳内で勝手にジュリア・ロバーツの表情で再現されたそのシーンは、切なくて美しい。

各エピソードから知った秘話を反芻しながら、それぞれの本編をもう一度きちんと見たくなる。上等なエンターテインメントは、その背景にもドラマティックな偶然と必然が積み重なっているのだ。(文:冨永由紀/映画ライター)