見た目は中年だが実年齢は12歳という、早老症の腹違いの弟との奇妙な同居生活を描いたヒューマンドラマ『オー! ブラザーズ』(03年)で監督デビュー。続く『カンナさん大成功です!』(06年)では、巨体の女性が全身整形で絶世の美女に生まれ変わったことから起こる騒動を描いて注目を浴びたのがキム・ヨンファ監督だ。
そのキム監督の最新作が、現在公開中の『国家代表!?』だ。これは、冬季オリンピック誘致のために急きょ結成された落ちこぼれスキージャンプチームの奮闘を綴った笑いと涙の感動作。主演に『チェイサー』で脚光を浴びたハ・ジョンウを迎えた本作は、韓国映画の歴代6位の興行成績を記録する大ヒット。映画賞も総なめし、今や押しも押されぬ韓国を代表する名監督へと登り詰めた。
そんなキム監督に、『国家代表!?』の裏話から、次回作の構想までを語ってもらった。
──まずは、この作品との出会いを教えてください。
キム:最初にこの話をいただいたときは、わずか3行くらいの内容だったんです。「国家代表の人たちが、劣悪な環境のなかで長野オリンピックに出る」と、それくらいで。だから、そのときは内容も貧弱だし、あまりやる気もなかったので辞退しに行ったんです。ところが、その帰り道に、何も考えずに歩いていたつもりが、実はいろいろなことを考えていたみたいで、この映画のメインキャストとなる5人のシュミレーションが頭のなかで大体できあがってしまって。それで、もう1度自分なりに組み立ててみようと思い、取りかかるようになったんです。
──主人公のボブ役を演じたハ・ジョンウは、どんな俳優でしょうか?
キム:動物ですね(笑)。それは、彼の俳優としての魅力は動物的なところにあるという意味なんです。野性的とでも言いましょうか。同時に、それだけでなく理性的な面も持ち合わせている。その両方を持っていることが大きな魅力で、韓国のファンの方もたぶん、彼のそういうところが好きなんじゃないかと思います。彼は人生においても、演技においても計算をしない人なんですね。そういうところがわかっていたので、ボブ役は合うだろうと思いお願いしました。
──この映画でボブはアメリカ育ちという設定です。英語もかなり堪能なキャラクターですが、ハ・ジョンウさんは苦労されていませんでしたか?
キム:正式な留学ではないのですが、彼は語学留学の経験があるので、それを生かしてもらいました。今、彼の魅力を聞かれて少し話しましたが、1人の人間の魅力って、たくさんありすぎて、1分くらいでは語れません。先ほどは言いませんでしたが、彼の良い面として、ものすごく賢い人だということが挙げられます。本当に頭の切れる人なんです。だから今回、英語の発音もネイティブのようでなければいけませんでしたが、彼なら、キャラクターさえ掴めれば、すべてうまくいくだろうと踏んでいました。実際、ポストプロダクションのときにアフレコをしてもらったのですが、発音を聞いても本当にうまい。よくやってくれたなって思いました。
──本作は実話の映画化でもあります。監督は脚本も兼ねていますが、実話の場合、どこまで事実に基づき、どこまでフィクションを入れるべきかという線引きが大事になってくると思いますが、今回はその線引きをどの辺りに置いたのでしょうか?
キム:本作を作るに当たって、歴史的な事実は偽ってはいけないなと思いました、いつチームが結成されたとか、そういうところは偽れない。一方で、キャラクターや感情表現の部分は、私自身がインスピレーションを得て作っていったものです。現実を見て、事実を踏まえながら、うまく調整していきました。
──この映画は韓国で観客動員860万人、歴代6位の興行成績を飾り、韓国の2大映画賞に当たる大鍾賞と青龍賞で、ポン・ジュノやパク・チャヌクといった奇才を抑え、見事、監督賞に輝くなど大成功を収めました。そのことで、プロデューサーやきれいな女優さんの反応は変わってきました?
キム:予想通りです(笑)。ただ、そうした変化は幸せだとは思いますが、やはり負担に感じることもあります。韓国では映画が産業として成り立ってから、まだ日が浅いんです。長い目でみると私は、ほかの監督もたくさんいるなかで、結果的に先駆者のような役割を担っている面もあります。それゆえか、アメリカからも映画を撮りませんかというオファーはあるのですが、まだ応じていません。理由はまだまだ韓国で語ることがいっぱいあるから。謙虚なつもりなのではなく、自分は本当に大したことのない人間だと思っているんです。
──では、いつ頃になったらアメリカに行ってもいいと思います?
キム:今すぐだと、おそらく向こうの要求通りにやらなければいけなくなると思うんですね。それだと、あまり私にとって意味がない。私は自分が持っているものや語りたいものを作りたいので、逆に向こうから「君が作りたいものを作ってください」と言われたら、それは意味があると思います。ただ、今はまだ、そういう段階に至っていないので、ハリウッドの監督になっても意味がないんじゃないかと。
今の目標は、韓国と中国と日本、この3か国なんです。この3か国は文化的にも非常に似ている。いつか3か国で同時に公開できるような映画を作りたいというのが目標です。そうなると西欧からも、「これを撮って」というのではなく、「来て下さい」と言われるかもしれないですよね。
──監督の次回作が、ゴリラが野球選手になる話だという記事を目にしたのですが。
キム:元々進めていたアクション大作があるのですが、それよりも、もっといい企画を見つけたので、それを先にやろうと考えたのがゴリラ映画なんです。
主人公は体重が300キロで、背丈が2メートルのゴリラ。中国のサーカス団にいたこのゴリラが、15歳の調教師と一緒に韓国の野球チームに入るという話で、完成は2年半くらい先を予定しています。というのもフル3Dで作らなければいけないから。完全な立体映画になる予定なんです。今はシナリオがあがる前に、ゴリラのモデルを作ったりしている段階です。
──2年半ってことは?
キム:2012年の冬休みくらいの公開を考えていて、中国とも話しを進めているところなんですが、中国と日本と韓国から出資をしてもらい、同時公開できないかなと思っています。
──そのゴリラ映画のアイデアで、ハリウッドデビューできそうに思えますが。
キム:そうなんです! 最初にこの企画を聞いたときに「ディズニーに渡した方がいいのでは」と私も言ったくらい。ところが、その後、どんどんインスピレーションが沸いてきて、どういう感情を表現しようかとか、ビジュアル面のアイデアも結構浮かんでいるんです。なので、これからの2年半は、自分の全人生をすべて捧げるつもりで、童話のようなファンタジーものを作り上げたいなと思っています。
『国家代表!?』はシネマスクエアとうきゅうほかにて全国公開中。
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