中国でタブーとされている天安門事件をテーマに、中国映画史上初となる大胆な性描写に挑んだロウ・イエ監督の『天安門、恋人たち』(06年)。第59回カンヌ国際映画祭での上映後、当局から「技術的問題」を理由に中国国内で上映禁止処分となり、さらにロウ・イエ監督には5年間の表現活動の禁止が言い渡された。
この処分を無視したイェ監督が手がけた新作が、第62回カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞した『スプリング・フィーバー』だ。本作で描かれているのは、中国で未だタブー視されている同性愛。1組の夫婦と、その妻から夫の浮気調査を依頼された探偵とその恋人。そして夫の愛人である青年の5人の放浪を通じて、普遍的な愛の形を際立たせる。
冒頭から男同士の濃厚なセックスシーンが描かれるなど挑発的とも言える本作について、そして中国の審査制度について、監督に話を聞いた。
[動画]『スプリング・フィーバー』予告編
『スプリング・フィーバー』作品紹介
──前作が上映禁止となり、表現活動も制限されたわけですが、この処分についてどう思いますか?
監督:中国電影局の審査制度は今も存在していて、映画製作に大きな不利益となるので、撤廃されるべきだと思います。
カンヌ国際映画祭での上映後に、中国のあるサイトで「性の不自由=政治の不自由だ」というようなことを言われたのですが、これはすごく当たっていると思います。私たちはそういう不自由な状況に置かれているんです。
──上映禁止と表現活動の制限は、本作にどう影響しましたか?
監督:本作を撮影するときは、中国では上映できないことが前提としてあったので、中国の審査制度を気にする必要がなく、自由に撮影できました。ただし、いつ撮影中止命令を言い渡されるかと覚悟していたのですが、幸いにもそういったことはありませんでした。
──同性愛を描いた理由は?
監督:映画のテーマは、今日の中国の若者の姿を撮ることと、人と人との関係──愛でした。そのなかで、自然に同性愛が出てきたのです。同性愛は法律で禁止されているわけではないので、同性愛者は一見、自由です。けれど目に見えない部分での圧力がある。
私は以前、「同性愛者が置かれている状況は、すなわち人間が置かれている状況である」と言ったことがあります。私がこの映画で言いたかったのは、社会のなかでの圧力、生活のなかでの圧力についてです。その一部として、同性愛を配置したのです。
──男性同士の性描写が多く出てきますね。
監督:性愛の描写はこの映画では非常に重要ですが、2人の男が愛を交わすシーンは、男女のシーンと同じように描写しています。なぜなら、愛に男女の区別はないから。愛は性を超えて存在すると言いたかったのです。
──2作目の『ふたりの人魚』(00年)も中国国内での上映禁止処分を受けていますが、監督にとって映画作りとは何なのでしょうか?
監督:映画を通して表現できるものはたくさんありますが、愛や喪失感について表現できればと思っています。映画監督として、人間とはどういうものか、生活とは、人生とは、ということに関心を持っています。たとえば、愛が人間に何をもたらすのかについて表現してみたいんです。
『スプリング・フィーバー』は11月6日より渋谷シネマライズほかにて全国順次公開される。
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