1993年11月22日生まれ、埼玉県出身。2013年より雑誌「MEN’s Non-No」の専属モデルとして活躍する一方、俳優として14年、フジテレビNEXT smartのオリジナルドラマ『FLASHBACK』で主演デビュー。他に『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)、連続テレビ小説『わろてんか』(17-18年)などのドラマに出演。映画は『キセキ ーあの日のソビトー』(17年)、『劇場版コード・ブルー – ドクターヘリ緊急救命』(18年)、『スマホを落としただけなのに』(18年)に出演。今年は『チワワちゃん』『翔んで埼玉』『愛がなんだ』『さよならくちびる』『人間失格 太宰治と3人の女たち』に出演。本作で映画初主演をつとめる。
『シコふんじゃった。』(92年)、『Shall we ダンス?』(96年)、『それでもボクはやってない』(07年)などで知られる周防正行監督。彼の『舞妓はレディ』(14年)から5年ぶりとなる新作が『カツベン!』だ。
今からおよそ100年前の日本、映画=活動写真には音がなく、上映に合わせて楽士が音楽を奏で、活動弁士が自らの語りや説明で映画を語っていた。
個性あふれるパフォーマンスで、もしかしたら俳優以上の“映画スター”ともいうべき存在だった活動弁士(通称カツベン)を志す青年の波乱万丈な歩みを描いた本作で主人公・染谷俊太郎を演じた成田凌に話を聞いた。
成田:そうですね。受かれば、初めて主演というものをやるわけですし、周防さんの作品は毎回、誰もが「見なきゃ!」となるじゃないですか。そんな作品に出られるなら、と思いました。脚本もむちゃくちゃ面白いし、とってもやりがいもある。たぶん錚々たるメンバーが集まるであろう。オーディションに受かって、完成した映画がヒットしたら、変わりますよね、何かは。それは作品を見てもらうということですけど、『カツベン!』を見てくれた方からのオファーで来年の仕事が1個決まりました。だから1個変わりました(笑)。映画が公開してからのことだと思っていたら、その前に変わりました。おお、面白くなってきたなと思いました。
成田:単純に「主演って何だろう」と考えている時間でした。オーディションに受かったと聞いた瞬間から。クランクイン前からインした後も。別に何かできたわけではないんですけど、その時間がすごく良かったのかなと思います。向き合い方や責任感も変わってくるだろうし、やっぱり主演というものはやった人にしか分からない何かがあるんだろうなと感じました。
成田:そうですね。何ていうんだろうな、弁士は全部をやってる人。1つ1つの作品の全てを理解して、役者の演技や流れなど全てのバランスを網羅して説明して演じるので、やっぱり役者ではあるのかなとも思います。戦う場面は戦ってるような表情になるし、女性だったら女性っぽい仕草をしながらの方が絶対にうまくなる。見せるわけじゃないけど、声でそういうことを説明しようとするとやっぱり行動も伴うから。で、なおかつ僕はお芝居として弁士をやってるわけです。
成田:イン前の4ヵ月とインしてからの3ヵ月間、毎日ずっと練習していました。弁士について本当に知らなくて、ゼロの状態から始めているので何も訳が分からない。「やってください」と言われてもできない。例えば「もっと濃くして」と言われるんです。それは節だったり言い回しだったり、独特のリズムをもっと濃くしてという意味で、プロデューサーさんや指導してくださった坂本頼光先生にずっと言われました。僕としては「いや、言ってることは分かるけど、できないんだ」という状態でしたが、時間が解決してくれました。
成田:反復練習です。ひたすら師匠のやることを真似する反復の日々でした。それがある日、僕の活弁について先生が「こうしてほしい」と言ってくれた時に「いや、俺はそうは思わないな」と思った瞬間から楽しかったです。自分のアイデアというものが出てきたんです。『火車お千』(劇中に登場するオリジナルの無声映画)という作品をずっと練習していたんですけど、ある時点で作品を完璧に理解できて、「俺だったら、この清十郎はこうする」と思ったんです。自分の活弁というものを手にした瞬間ですよね。師匠の教えからちょっとはみ出てオリジナル化した瞬間です。
成田:本当にインぎりぎりぐらいなのかな。たぶん本番はほんとにオリジナルのものなんだと思います。本質的なところでは師匠にめちゃめちゃ似るんですけど。癖だったり、表情の作り方、顔の動き方、体の動かし方やリズムみたいなところがやっぱり似るんです。ほとんどが師匠のものですけど、ちょっとずれた部分の中で、すごく自分で楽しんでできたのはやっぱり本番かなと思います。
成田:最高でしたよ。もう、ただ楽しい!と感じていました。ほんと楽しかったな。いいのかな?と思うくらい贅沢な時間の使い方で、すごく丁寧に撮れていたので、うれしいと思ってました。監督が本当に楽しそうに毎日されていて、やっぱりその空気が現場にも流れるんですよね。
成田:この作品でも思ったし、最近思うのは、本当にすごい人は緊張させないです。すごく楽にさせてくれる。だから緊張した記憶がない。
成田:一番何が大変でしたか?とよく聞かれますが、竹中さんとお芝居してるときに笑わないようにすることが一番大変なんですよ。アクションもあるし、関西弁だし、もちろん活弁がありました。でも、竹中さんは本当に「やめてくれ!」というぐらい面白いから。そういう意味で『カツベン!』という作品の温度感は竹中さん次第みたいなところがある気がします。予告で使われてる竹中さんのセリフは全部アドリブなんですよ。渡辺えりさんが高良健吾さんに強く当たられるときの反応とか、めちゃ面白かったです。毎日何が起きるか分からないので、頭をすっからかんにして行ってました。何をしようとか考えないで、本当にその場の人任せな役作りというか。決めていったところで、皆さんが何をするかわからないですから。なかなかできないことですよね。気が楽なようで一番怖い状態で現場に日々行ってました。でもほんと楽しかったです。
成田:得意……。わからないけど、その節はあるのかもしれないと思いました。友人の役者で同い年の間宮祥太朗に「人類の末っ子」と言われました(笑)。そういうところがあるんだと思います。
成田:そうです。答えになってるかわからないけど、現代劇として時代劇をやったというのが本当にそうで。時代劇で時々、建物が必要以上に古びていたり傷ついてるのは意味が分からないと思ってたんですけど、この映画ではそれはないんです。木館は明治時代からの小屋だからちょっと古びてるけど、あとのものは全部きれいだし。劇中で上映するフィルムはいっぱい巡業を回ってこすれてるからざらざらしてあります。でも新しいものは新しく、海外のものは海外のもので、全部きれいに作ってるんです。あとはエキストラの方々が本当に素晴らしかったですね。
成田:そうなんです。この物語は、僕が演じた染谷俊太郎が自分の活弁を探すことがテーマですが、僕もそうだったんです。僕自身も自分の活弁というものを手にしたいと思いながらの日々でした。厳密に言うと最後のは活弁ではないんです。映画ではなくて頭の中で想像する物語なので、何ものでもない自分の語りなんです。「だから活弁じゃない」という話を監督としました。活弁じゃないというのが肝で、だから、ほとんど教えてもらってない。僕がお手本にしたのは少年時代の俊太郎の活弁です。あれは僕の中では梅子ちゃんに向けた語りなんですよね。あの活弁シーンは、瞬きを1回もしてない気がする。一点だけを見据えてやっていました。
成田:僕には犯罪をしてまでやりたいことってないですね。そこまでやりたいことだったり、守りたいものはないので、うらやましく思ってました。こんなに素直に生きられない。ここまでの思いがある人のほうが少ないんじゃないですか。なので、演じる側としては活弁が好きという純な気持ちだけを持って、あとはもう人任せというか、その場のものに合わせて行きました。
成田:そう、怖いことなんですよ。とっても怖い。準備の期間が半年ぐらいあっていろいろ考えることはできたけど、考えた結果そういうことかなと思いました。
成田:そうです。
成田:いや、あのメンバーがいて、あの監督だったら、全てを捧げていいと思っちゃいますよ。そうさせてくれるし。押し付けがゼロなんですよ、監督が。「取りあえずやってみて」、「好きに動いて」と言ってくださるんです。
成田:いや、常にやる気はありますよ(笑)。でも、よく言われます。「熱量みたいなことあるの?」とか。あるけど、それが出たところでいい芝居できないというか。ほんとに言うと、1にギアを置いていたいなと思ってますね。リラックスした状態で。お芝居が始まる前、「よーい、はい」の前に1回あくびが出ちゃうんです。リラックスしようと思ってるけど、やっぱりちょっと緊張しちゃう。だからそのぐらい、本当にあくびしてもいいぐらいの感じで日々やっています。
(text:冨永由紀/photo:今井裕治)
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