1969年9月14日生まれ。韓国出身。劇場長編デビュー作は、監督と脚本を手がけたペ・ドゥナ主演の『吠える犬は噛まない』(00年)。『殺人の追憶』(03年)、『グエムル‒漢江の怪物‒』(06年)が次々と大ヒットし、海外にも進出。『スノーピアサー』(13年)、カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品されたNetflixオリジナル映画『オクジャ/okja』(17年)など、多くの話題作を世に送り出している。
2019年の第72回カンヌ国際映画祭で、韓国映画として初めてパルムドールに輝いた『パラサイト 半地下の家族』。監督は『殺人の追憶』や『グエムル-漢江の怪物-』などで才能が高く評価されているポン・ジュノで、本作は彼にとって『母なる証明』以来、10年ぶりの韓国映画だ。
物語は、半地下の家に住む貧しいキム一家の長男が、身分を偽って裕福なパク一家の家庭教師になったことから始まる。──格差社会への批判を、コメディもスリラーもありのエンターテインメント作としてとして表現した本作は、韓国をはじめフランスやアメリカでも大ヒット。今や世界的な鬼才のひとりとなったポン・ジュノ監督に、作品への想いを聞いた。
監督:「パラサイト」と聞いて、はじめは誰もがクリーチャー映画かSF映画を期待するでしょう。しかし、この映画の登場人物たちは現実世界に生きる家族です。彼らは、他人と争わずに共生していきたいと願っているにもかかわらず、上手くいかずに寄生的な関係へと追い込まれてしまいます。本作は、人々が皆で豊かな人生を送りたいと思っても、それがいかに困難であるかが見えたときに生じる、ユーモア、恐怖、哀しみを描いた悲喜劇だと考えています。ですから、このタイトルは皮肉です。『殺人の追憶』の韓国語題が“あたたかく、楽しい思い出”といった意味合いを想起させるのと同じです。
監督:これは人間ドラマですが、強い現代性があります。だいぶ変わった状況の物語ですが、実世界でも起こり得る物語だともいえます。ニュースやソーシャルメディア上の出来事をスクリーンに映したと感じる人もいるでしょう。そういった意味では非常に現実的ではありますが、誰かがこの映画を犯罪ドラマだ、コメディだ、悲しい人間ドラマだ、恐ろしいスリラーだと言っても反論するつもりはありません。私は常に観客の期待をひっくり返そうと全力を尽くしています。そして、本作でもそれが成功していることを願っています。
監督:キム一家は、むさ苦しい半地下のアパートに住んでいる低所得層の家族で、平凡な生活を望んでいますが、それさえも叶えることができていません。父ギテクは事業で失敗を重ね、スポーツ選手としてトレーニングを受けた母チュンスクもこれといった成功を収めることもなく、息子と娘は大学入試に何度も失敗しています。それとは対照的に、IT企業の社長であるパク一家は、有能な新興富裕層の家族です。パク氏はある種のワーカホリックで、美しく若い妻と、かわいらしい高校生の娘と幼い息子がいます。彼らは現代の都市エリート層の中でも理想的な家族だと言えるでしょう。
監督:この社会で絶え間なく続いている“二極化”と““不平等”を表現する一つの方法は、悲しいコメディとして描くことだと思います。私たちは資本主義が支配的な時代に生きていて、他に選択肢はありません。韓国だけでなく、世界中が資本主義を無視できない状況に直面しているのです。現実には、失業中で貧しいキム一家のような家族とパク一家のような富裕層の家族の人生が交わることはめったにありません。あるとすれば、誰かが家庭教師または家政婦として雇われるなど、階級間での雇用関係が生まれるときです。そのような場合、2つの階級が互いの息を感じられるほどの距離に近づく瞬間があります。相反する階級の家族は、互いに悪意がないにもかかわらず、本当に些細な誤りによって亀裂や爆発が起きうる状況に陥っているのです。今日の資本主義社会には、目に見えない階級やカーストがあります。私たちはそれを隠し、表面的には過去の遺物としていますが、現実には越えられない階級の一線が存在します。本作は、二極化の進む今日の社会の中で、2つの階級がぶつかり合う時に生じる避けられない亀裂を描いているのです。
監督:この作品を見て、多くのことを考えてくれたら嬉しいです。ある部分においては可笑しく、恐ろしく、そして悲しい。お酒を酌み交わしながら、この映画を見ながら感じたことを話し合いたいと思ってもらえたら、それ以上望むことはありません。
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