1985年7月5日生まれ。東京都出身。01年にロックバンド「RADWIMPS」を結成し、「25コ目の染色体」(05年)でメジャーデビュー。illion(イリオン)名義でソロプロジェクトを行っているほか、俳優としても『トイレのピエタ』(15年)、『泣き虫しょったんの奇跡』(18年)、NHK連続テレビ小説『エール』(20年)などに出演。
手塚治虫の病床日記に触発されて作られた映画『トイレのピエタ』で俳優に挑む、しかも主演で──。そんな大きな決断をしたロックバンド「RADWIMPS」のボーカル&ギターの野田洋次郎。彼が演じた宏は、画家への夢破れ、大好きなものに傷つけられ、しかも余命3ヵ月と宣告された青年だ。
「自分のようで自分じゃない、でも自分のようだった」と独特の表現で宏という存在を語った野田。そんな彼に、本作出演によって得たものや、音楽活動について聞いた。
野田:脚本が面白かったというのがありますね。ただそれだけが理由ではなく、心配性な僕を説得し続けてくれた(松永大司)監督がいた。「演技できませんよ」という僕に「大丈夫、演技しなくていい。洋次郎ならできる」と言い続けてくれた監督のおかげですね。
野田:脚本を読んだ段階で、生き方や世界の眺め方、自分の美しさの守り方、不器用だけれど男らしかったりする部分……多くのことに共感しました。でも実際撮影をしてみたら、客観的に捉えることをしなくなり、宏そのものになっていったという感じでした。
野田:そこは明確に違います。映画は監督のもの。僕の中から何か新しいアイデアを持ち込むことはなく、監督が僕の中の何かを使いたい、僕の人生のある一定の期間をお渡しするという感じでした。だから僕は宏に集中すればよかったんです。
野田:曲によって違うのですが、今回みたいなパターンは珍しいですね。感情がすごく高まって、それを逃したくないと思い、追われるように捕まえるように作ったんです。一気に書き上げました。何かを作ろうとするとき、理性的な部分も必要だと思うタイプなので、こういう形で曲を作るというのはめったにないですね。
野田:「自分のようで自分じゃない、でも自分だ」みたいな経験は初めてですね。でも間違いなく自分が抱いてしまった感情だったから、本能的に書きました。音楽を持っていてよかったなって……。これを残せるんだったら残したい、残さなきゃダメだって思ったんです。
野田:まだ実感はありませんが、宏の人生を生きたというのが大きかったですね。彼の作品が世界に出ないこと、彼のメッセージが受け取られないことってマイナスだと思う。でも音楽家であっても彫刻家であっても、物書きであっても、そういうことって世の中ではたくさんあるんだと思う。そういった後悔や無念を考えると、僕はいま表現できる立場にいられるので、宏の分まで自分を使い切りたいなって強く思えるようになったんです。
野田:改めて自分は作りたい人なんだなって思いました。やらないと気が済まないんですよね。
野田:4〜5年前からライブで来てくださって、ご飯とかも行ったりする関係だったんです。あまりかしこまっていうのもおこがましいので、「映画の話があるんです」ってサラッと言ったのですが、そうしたら「絶対出た方がいい、わたしも出たい!」って。すごく直感的でパワーのある方です。
野田:ないです(笑)。尊敬の気持ちはすごくあるし、影響も受けているけれど、ライバル心的なものは全くないです。同じ表現をするということでも(俳優とミュージシャンは)まったく違うものだと思うんです。いつも色々なヒントをいただける方だけれど、違うフィールドで頑張っている2人という感覚でした。
野田:どうだろう。ただ仕事で会いましたという関係が好きではなく、なるべく多く話し合いを重ねて物を作り上げていくようにしています。映像にも必ず意味が出てしまうので、ただプロモーション的なものを作るのが嫌なんです。
野田:あの作品を撮った柿本(ケンサク)くんも映画監督ですし、オマージュはあったと思います。僕自身も映画はよく見ますし、好きな作品はいっぱいあります。『3月のライオン』とかは3月になるといつも見ますし、最近では『アデル、ブルーは熱い色』も何度も見ています。
野田:ないですね(笑)。役者もだいぶ遠いなと思いましたが、僕が考えるものじゃないからできた。いま僕の目の前にはやりたいことがいっぱいあって、早く世の中に残したいという思いが強いんです。その“残したいもの”が、音楽よりも映像にした方がいいと思えば考えるかもしれませんが、いまは音楽での表現しか考えていません。
野田:違います。ソロはオフみたいなもの。音楽を作り疲れると、僕は音楽で解消するんです。音楽は仕事にもなるし、遊びにもなるし、息抜きにもなる。音楽を色々に使い分けています。
野田:大好きなストーリー。出させていただいて幸せでした。どこまで物語が持つパワーに力を加えられたか分かりませんが、一生忘れられないような経験、気持ちに出会えたので、見てもらえる人には、その気持ちを共有してもらいたいです。この世界に対して生き辛さを覚えている人には、何かしらの救いになる映画だと思います。
(text&photo:磯部正和)
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