1968年、ブラジルのバイーア州生まれ。『セントラル・ステーション』(98年)、『ビハインド・ザ・サン』(02年)の助監督を経て、『Onde a Terra Acaba』(02年)を監督、リオ、ハバナと、ビアリッツ映画祭で最優秀ドキュメンタリーに選ばれた。初の長編フィクション、『Lower City』(05)では、カンヌ国際映画祭の「Award of the Youth」を含め18もの賞を受賞。08年にはHBOのシリーズ物語『Alice』を監督。
オリンピックにわくブラジルから、感動のヒューマンドラマがやってきた! スラム街に生きる子どもたちが、音楽という武器を手に未来を切り拓いていく様子を描いた『ストリート・オーケストラ』だ。
政情不安、暴力、貧困などネガティブなテーマで描かれることの多いブラジル映画にあって、「希望を伝えたい」と語るセルジオ・マシャード監督に、映画について聞いた。
監督:きっかけは2つあります。ひとつは、両親が音楽家だということです。父はピアノを、母はファゴットをバイーア大学交響楽団で吹いていました。幼い頃はオーケストラの中で育てられ、楽器で遊んだりしていたので音楽の世界には親しみがあり、両親へ捧げたいという気持ちがありました。もうひとつは、ブラジル映画といえば、ネガティブな問題に焦点をあてた作品が多いのですが、その中で希望を伝える映画を作りたいと思ったということです。音楽は普遍的な言語として世界中に通じるものだと思っています。
監督:本作を作る過程で、私には映画をつくることしかできないのに、それさえ出来なくなってしまったらそこからどう回復していくのかと思い悩んだことがありました。そして、自分が体験したその道のりを描こうと思い至ったのです。自分の中のラエルチを発見した瞬間から、脚本をスムーズに書くことができました。この映画は、主人公のバイオリニストが直面するジレンマ、オーディションで神経衰弱を起こし、人生の全てを捧げて来た夢を一生叶えられないという恐怖を、自分自身のジレンマと重ねた、個人的な要素を含むプロジェクトでもあるのです。
またもうひとつ大事なことは、「素晴らしい教師との出会いによって、子どもたちが変わった」という物語ではなく、「コミュニティが先生を変えた」という物語にしたということです。私は、世間からはみ出し者と見られがちな人物たちを違う切り口で描きたいといつも思っています。前作では、貧しい地域に生まれた人々が、愛の力で人生を変える物語でした。ブラジル映画では、スラム街を舞台にすると、暴動とか暗い話題が主題になりがちですが、私はそうしたくはありません。また、新作でも、例えばウォルター・サレスと進めている次のアニメのプロジェクトでは、小さな虫が大きな世界を救うという物語で、しかもその小さなものは、可愛いものではなく、ゴキブリやドブネズミたちなんです。私は、泥の中でさえも花は咲く、どんなところにでも希望はあるということをいつも描こうとしています。
監督:全員スラム街出身で、演技経験のある子は1人しかいません。オーディションでは、自分の人生を語ってもらいました。そして子どもたちを初めて集めた日に、みんなの前でもう一度、自分の人生を語ってもらったんです。彼らはまだ子どもですが、すでに苦しみを十分に味わい、暴力などの痛みを感じているという共通点があります。他人の話を聞いて、涙する子どもたちを見た時、「この映画のことが分かった」と感じました。クラウディオ・アバドというイタリアの有名な指揮者がいましたが、彼は「クラシックの未来は南米にある」と言っています。これはエル・システマという素晴らしいプログラムがあるからですが、私も実際にそうなんだろうなと感じています。
彼らは、もしかしたら人生でたった1回かもしれないチャンスと感じ、撮影には真剣に向き合ってくれました。また私にも、色々な意味で変化をもたらしてくれました。撮影を始めてすぐに、この映画は彼らが作り、彼らのために作られる物だと気付きました。彼らがインスピレーションの源であり、最終的に少年たちにこの映画を見てほしかったので、とにかく彼らの本当の姿を描けるように努力しました。彼らが自らを発見し、出来上がった作品に誇りを持ってほしかったのです。
監督:実は当初は彼が一番の候補ではありませんでした。ラザロとは15年来の友人で、主人公の友人役の話を彼に持ちかけたのです。けれど脚本を読んで彼は、これは自分自身の話だから、主人公役が務まるのは自分以外にいない、ぜひやらせて欲しいと言ってきたのです。もともとは白人をイメージしていたので戸惑いましたが、最初で最後のお願いとまで言われました。
彼は、映画に出てくる子どもたちよりもっと貧しいスラム街出身で、 芸能界への道は、社会福祉活動から開かれたそうです。その熱意に押され、ラザロにラエルチを演じてもらうことにしましたが、その際にはラザロの個性をキャラにもたらして欲しい、ただ演じるのではなく存在して欲しいとお願いしました。私はかなり細かい脚本をつくるタイプですが、現場ではオープンなタイプで、ラザロにも脚本は持たずにアドリブで演じても良いとも言いました。
実は制作費が集まらず、撮影も1年伸びてしまい、その間子どもたちには演奏のレッスンを受けてもらったのですが、ラザロにも1年間レッスンを受けてもらっています。ラザロは大スターですが、現場での子どもたちとの関係性は同等でした。子どもたちは、かつてのラザロであり、ラザロは子どもたちがいつかなりたい夢の人物、というリアルな関係性が素晴らしかったんです。撮影が始まったばかりの頃に、微笑ましいエピソードがあります。子どもたちが撮影を終えて、ラザロだけのシーンの撮影に入る前に、彼らがラザロを部屋の隅に呼んで、「失敗しちゃだめですよ」と言っていたんです。ラザロと彼らの間には、最初からとても強い絆を感じました。
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