1994年3月17日生まれ。神奈川県出身。09年に「AKB48・第8期研究生オーディション」に合格し芸能界入り。その後、女優を目指し、大河ドラマ『八重の桜』(13年)、『花燃ゆ』(15年)、連続テレビ小説『花子とアン』などに出演。本作でメガホンを執った園子温監督とは『新宿スワン』以降、数々の作品を共にし、『アンチポルノ』で念願の主演を果たす。
鬼才・園子温監督が、日活ロマンポルノ生誕45周年を記念して立ち上げられた「ロマンポルノ・リブート・プロジェクト」でメガホンをとった。タイトルは『ANTIPORNO アンチポルノ』。主演は、園監督作品の常連となっている女優・冨手麻妙(とみて・あみ)が務める。
「初めて脱ぐ作品は園監督作品の主演で」と公言していた彼女が、満を持して挑んだ主演作。『アンチポルノ』という挑戦的なタイトルに込められた意味とは――。冨手が自身の胸の内を赤裸々に語った。
冨手:園監督と出会ったとき、最初に言われたのが「お前、脱げるのか」という質問だったのですが、その時、私は「はい脱げます」って気合を入れて返事をしたんです。女優という仕事を始めるときの一つの目標だったのが「園子温監督の映画の主演で脱ぐ」ということだったので、裸になることに対して全く抵抗はありませんでした。それよりも、園監督がイメージしている主人公の女性を演じられなかったらどうしようという恐怖の方が大きかったです。
冨手:園監督のオリジナル作品で、しかも「主人公の京子は冨手を当て書きした」と仰っていたんです。一方で私は、園監督が、日本や映画界のことについて苛立ちを持っていたのを知っていたので、監督自身の胸の内も、この作品には内在しているんだろうなって感じました。
冨手:私も10代のころ、グラビアの仕事をしていたことがあるのですが、自分で表現したいと思っていたこととは違い、性的に捉えられることが多かったんですね。そういう悔しさをセリフや言葉にして描いたのが『アンチポルノ』という作品だと思います。
冨手:『アンチポルノ』は女性の裸がどう消費されるのかがテーマの一つ。ロマンポルノといえば、今までのイメージだと、男性のための、すごくセクシーで色っぽい作品というイメージがあると思いますが、新たに今の時代にリブートするならば、男性だけではなく、女性が見ても面白いと思える作品にしたいという考えが園監督にはあったんだと思います。
冨手:私も切り分けられないんです。役をいただいている間は、その役になってしまっていることが多いです。役に魂を預けて、自分の身体を役に貸している感じですね。
冨手:園監督の現場は常に不安です。大好きな監督の現場にいられる幸せはありますが、ちょっとでもミスしたり、監督の思う世界に入れなかったりしたら、一瞬で消えていくんだろうなという危機感は常に持っています。『アンチポルノ』の現場では、園監督がイメージしている京子というキャラクターにちゃんとなれているのかずっと不安でした。何作も現場でご一緒していますが、いまだに園監督から話しかけられると吐き気がするぐらい緊張します。でも『アンチポルノ』の撮影が終わったとき、「またお前でいい映画撮るからな」って言われて救われました。
冨手:そうですね。恐怖なのですが、快感になっていますね。でも役者ってそういうものなのかなって思うんです。「また一緒にやろう」って言ってもらえても、新しい女優はいっぱいいますし、自分の変わりなんていくらでもいる。自分がもっと良くならなければというプレッシャーと常に戦っていかなければいけないと思います。それでもやめられないんですよね。
冨手:私は頑固なところがあって「初めてヌードになるのは園子温監督の作品」って決めていました。でも今後はわかりません。素晴らしい作品に出会えれば脱ぐことをいといません……。ただ初めての作品にはこだわりたかったので、やっぱり園監督の作品でなければありえなかったと思います。
冨手:なっていないと思います(笑)。試写のあと、見ていた男性陣が「この作品では一切興奮しなかったね」と言っていたんです。それを聞いて「やったぜ!」って思ったんです。この作品において、私の身体はポルノではなかったと言い切れますし、そう望んでいました。今回は、女性に寄り添った作品。女性の身体は必ずしも性的なものではないということが描きたかった作品ですからね。もちろん、園監督が、性的で女性のいやらしさを出したいと思った作品だったら、私の身体がポルノになっていることが正解だと思うんです。
冨手:そうなんだと思います(笑)。でも一方で、私はさんざん、自分はブリジット・バルドーのようなセックスシンボルになりたいと言っていたので、「矛盾が生じてしまうな」という思いはありました。私はどっちを目指していくのかなって(笑)。
冨手:『自殺サークル』という映画でした。ちょうど16歳ぐらいで、アイドルをやりつつお芝居をはじめたころに出会った作品です。それまでも面白いと思った映画はありましたが、誰が撮った作品なんだろうと思ったことはありませんでした。でも『自殺サークル』は、撮った監督にすごく興味を持ったんです。
冨手:すごくジェラシーを感じました。吉高さんをはじめ、満島ひかりさんや、二階堂ふみさんなどにすごく嫉妬しましたね。中でも、『TOKYO TRIBE』に出演していた清野菜名さんにはすごくジェラシーを感じました。彼女とは一緒に舞台をやっていたのですが、菜名さんが「私映画で脱いだんだよね」って言っていたんです。その作品の監督が園さんだと知ったとき、本当に悔しくて「負けてられない!」って思って、園監督に会いに行ったんです。そのあとも、『新宿スワン』では沢尻エリカさんに、『リアル鬼ごっこ』の時はトリンドル玲奈さんと一緒のシーンが多かったのですが、私って性格悪いなって思うぐらい、現場ではずっと嫉妬していました(笑)。もちろん皆さんすごく役者として魅力的な方たちというのはわかっているんですけれどね。
冨手:そうですね。やっと目標を達成することができ、スタートラインに立てたのかなという感覚です。
冨手:まずは園監督と海外の映画祭でレッドカーペットを歩き、賞を獲りたいです。さらには、園子温という人間を超えたいです。神様のようにリスペクトしていますが、いつかは私が園監督を海外の映画祭に連れて行ってあげるというぐらいの気持ちでいたいです。そうしないと園監督との戦いには勝てませんよね(笑)。
冨手:以前、海外の作品と一緒に製作された短編オムニバス映画の『Love Of Love』という作品で共演させていただいたことがあるのですが今回初めて本格的に共演させていただきました。同じセリフを言うシーンなどがあったのですが、すごく重みがあり、圧倒的な存在感を感じました。私もいつかは、筒井さんみたいな芝居ができる女優になっていなければいけないと思いました。私みたいな小娘にも常に全力で挑んできてくれて、筒井さんと戦わせていただけたことが光栄でした。
冨手:信頼している園監督の作品で主演を務めるとき、裸になろうと決めていましたが、周囲には反対する人がたくさんいました。ロマンポルノというだけで過剰反応し、全否定する人もいました。嫌な思いも、悔しい思いもたくさんありました。そんな私の気持ちを知っていて、園監督は「死ね! 死ね!」というセリフのシーンの前に「全部自分の気持ちを吐き出してみろ」と私に言ってくれたんです。だから私は自分の気持ちが空っぽになるまで、今までの怒りや悔しい気持ちを吐き出しました。1週間という短い撮影期間でしたが、私にとって22年間の人生を詰め込んだ作品です。だからこそ、この作品で終わってはいけないし、消費されてもいけないと思っています。女優として消費されないために、もっと大きな目標を立てて、これからもっと上がっていきたいと思っています。
(text&photo:磯部正和)
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