1973年8月25日生まれ、ドイツ・ハンブルク出身。トルコ移民の両親のもとに生まれたこともあり、これまでに移民を題材にした作品を数多く発表している。1995年に「Sensin-Du bist es!」で初めて短編を製作したのち、「Kurz und schmerzlos」(98年)で長編監督デビュー。その後、2004年の『愛より強く』で第54回ベルリン国際映画祭金熊賞をはじめ、数々の賞に輝き、一躍脚光を浴びることとなる。さらに、『そして、私たちは愛に帰る』(07年)で第60回カンヌ国際映画祭脚本賞とエキュメニカル審査員賞を受賞し、『ソウル・キッチン』(09年)では第66回ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞を受賞。30代にしてベルリン、カンヌ、ヴェネチアの世界三大映画祭主要賞を受賞するという快挙を成し遂げる。そのほかの代表作は、『消えた声が、その名を呼ぶ』(14年)や『50年後のボクたちは』(16年)など。
現代のドイツを代表する映画監督のひとりといえば、『ソウル・キッチン』で知られるファティ・アキン監督。現在44歳となるが、30代で世界三大映画祭の主要賞を制覇する快挙を成し遂げるなど、「若き巨匠」と呼ぶに相応しい存在として日本でも人気が高い。まもなく公開となる最新作『女は二度決断する』では、ゴールデングローブ賞外国語映画賞を獲得し、主演を務めた国際派女優のダイアン・クルーガーにカンヌ国際映画祭女優賞をもたらしたことでも大きな話題となった。
本作は、「ドイツ警察戦後最大の失態」といわれたネオナチによる連続テロ事件から着想を得て作られた作品。無残にも最愛の家族を奪われた女性の心情だけでなく、捜査や裁判の様子などがリアルに描かれており、衝撃の結末に世界中の観客が心を揺さぶられている。そこで今回は、8年ぶりの来日となったアキン監督に、この作品へ込めた思いやダイアンとの関係、そして観客に伝えたいメッセージを語ってもらった。
監督:もともとドイツにおける人種差別については10代の頃からテーマにしたいとずっと思い続けていたんだ。だから、コンセプト自体は高校生くらいのときにはすでに書いていたんだよ。ただ、テーマとしては難しいところもあったし、僕はみんなに説教したり学びを与えたりするような映画は作りたくなかった。
ドイツには第二次世界大戦のヒトラーの歴史があるがゆえにポリティカル・コレクトネスな映画でなければいけないというような風潮があるんだけれど、僕はこの作品ではそうはしたくないと思っていたんだ。
監督:特に使命みたいには思ってはいなかったよ。ただ、茶色の目で黒い髪ということだけで僕たちのような移民に対して国から出て行って欲しい、もしくは殺したいと思っている人がいるということを少年時代に知ってしまったんだ。
でも、僕はドイツ生まれで、自分のことをドイツ人だと思っているし、ドイツが自分の母国であり故郷でもある。ということは、本来は安全な場所でなければいけないはずなのに、そういう状況にあるということにすごくショックを受けたんだ。だから、この作品は使命というよりは、そういう自分のトラウマと向き合うことにはなったといえるかもしれないね。ウディ・アレンが自分の作品でそうするように(笑)。
監督:僕の作品でカギとなるのは、「自分のやっていることを自分が信じられなければいけない」ということじゃないかな。それがすべての作品においてテーマ的に共通しているところだと思うよ。だから、スーパーヒーローとかSFやファンタジーの作品とかをやりたい気持ちがないわけじゃないんだけど、「自分が信じられるのか?」というのを考えたときに、そこが難しいんじゃないかなと思ってしまうんだよ。
僕には12歳と5歳の子どもがいて、スーパーヒーローが主人公の作品を一緒に見ることもあるんだけど、そうすると「なんでパパはシリアスなものばっかりを作って、こういう映画作らないの?」って言われちゃうんだ(笑)。確かにそうだなと自問することもあるんだけど、そのたびに「見るだけの作品は信じられなくても楽しめるけど、自分が作る作品は信じられなければできない」と考えてしまうんだよね。だから、もしいつか僕がスーパーヒーローものを作ることになったら、それは超リアルなものになるんじゃないかな(笑)。
監督:今回、キャスティングを考えたときに最初に浮かんだのがダイアンだったけど、企画や脚本の段階では彼女のことは考えてはいなかったよ。ただ、キャラクターやストーリーに関しては、脚本に入る前の段階で頭のなかでは完全に出来上がっていたんだ。だから、今回は脚本を書く作業は僕の中ではすごく短くて4ヵ月ほど。とはいえ、撮影の数ヵ月前にまだ脚本が出来上がってなかったから、スタッフたちはみんなパニックになっていたけどね(笑)。
監督:今回一緒に仕事をする前のダイアンに対して僕が抱いていたのは、「ポップスター的な女優」というイメージ。でも、2012年のカンヌ国際映画祭で僕の作品のビーチパーティに彼女が来てくれて初めて会ったときには、久しぶりにクラスメイトと再会したかのような感じだったんだ。まあ、2人とも酔っぱらっていたというのもあるんだけどね(笑)。
ダイアンは「高校時代の決して手が届かないクラス一の美女」みたいなタイプなんだけど、一度話してみたらすごく仲良くなれる感じの相手でもあるんだ。それで、お互いに好印象だったこともあって、今回彼女を思いついたんだけど、もうひとつの理由としては、これまでポップなイメージの彼女がシリアスなテーマの映画に出演すれば、ドイツの観客にはサプライズになって面白いだろうということ。それがすごくいいと思ったんだ。その時点で彼女がこの役をこなせるかどうかということに関して自信はなかったんだけど、僕は役者の内面を引き出すことに関しては監督として自分に自信があるからね。
監督:子役のキャスティングはすごく難しくて、慎重に行わないといけないものだから、ダイアンの息子役を選ぶときに、実は一緒に参加してもらったんだ。そのときにやってもらったのは、子どもが車にひかれそうになってダイアンが抱くというシーン。そしたら、彼女は本当に自分の子どもがひかれそうになったくらいの大声を出して、見事に演じてくれたんだ。
それを見たときに、彼女には役者としての恐怖心はないし、自分のやっていることに完璧な自信を持っているんだなと感じられて、その瞬間に「ダイアンで間違いなくいける」と思えたよ。それ以降は心配することもまったくなく、この映画はいいものになると確信できたね。
監督:見て楽しいというと語弊があるけれど、映画としてじっくり見てもらえる作品にはしたつもりだよ。僕としてはこの作品はサスペンスでもあると思っているから、そういう風にも見てもらえるはずだし、それと同時にテーマとしては普遍的なところもあるので、日本の方にもきっと何か得ることがあると思っているんだ。この映画のなかで描かれている葛藤やさまざまな問題に対して何か思うところがあれば、それをご自分の世界でも応用してもらえたらと願っているよ。
(text&photo:志村昌美)
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