【男達の遠吠え】後編/渡瀬恒彦の哀しさが胸に迫る!
【男達の遠吠え】『鉄砲玉の美学』後編
本日の名セリフ:「わいは天佑会の小池清や!」
『タクシー・ドライバー』のデ・ニーロを彷彿!
中島貞夫監督、渡瀬恒彦主演のATG作品『鉄砲玉の美学』(1973年)において、渡瀬恒彦演じるチンピラ小池清は、「くだらねえ毎日とオサラバしたくないかい?」という甘い言葉に「やりま!」とのせられ、まんまと鉄砲玉とさせられてしまう。
この映画においては、最後まで上層部の人間たちは姿を見せることはない。映し出されるのは、命と引き替えに100万円という金と拳銃、そしてスーツを手に入れたチンピラが刹那的な快楽に溺れ、そして迫り来る恐怖におびえる姿のみである。自分のあずかり知らないところで、自分の運命が勝手に決められる哀しさ。脚本を執筆したのは『柳生一族の陰謀』『日本侠客伝』、『必殺』シリーズなど数々の傑作を手がけてきた野上龍雄。低予算を逆手にとった描写で、チンピラの鬱屈(うっくつ)した心情と高揚感、そして情けなさを重層的に浮かび上がらせている。
鉄砲玉となったチンピラ小池清を演じるのは渡瀬恒彦。近年の『警視庁捜査一課9係』や『おみやさん』といったテレビドラマで見せるひょうひょうとした温和な役柄も味わい深いが、若き日に出演した本作のようなふてぶてしさとナイーブさが同居したような役柄も最高だ。何も持っていない男が、たった100万円ぽっちの金を手にしただけで舞い上がり、男としてランクを上げたような気持ちになる。そしてホテルの鏡に向かって何度も「わいは天佑会の小池清や!」と自己暗示。その姿はまるで『タクシー・ドライバー』のトラヴィスのようにも見えてくる。
自分が組を背負っているんだという自負と、それまで手にしたことがなかったであろう100万円が男の存在意義のすべてだが、中身は結局、何も変わらないのだ。銃を手に取り、あたかも最強の男になれたような高ぶりを感じたはずなのに、ふとわれに返ると恐怖が降りかかる。そんな恐怖を打ち消すためにさらに虚勢を張るが、また空回り。こんなはずじゃないという焦りがどんどんと清を追い詰めていく――。
この映画では、そんな鬱屈(うっくつ)した思いをぶっ壊すかのように、頭脳警察の名曲「ふざけるんじゃねえよ」が鳴り響く。「ふざけるんじゃねえよ、てめえの善人面を、ふざけるんじゃねえよ、いつかぶっとばしてやらぁ」と――。(文:壬生智裕/映画ライター)
★関連オススメ作品
『現代やくざ 血桜三兄弟』:この映画に登場する、小池朝雄演じる鉄砲玉が本作の元ネタ。
『ネオ チンピラ 鉄砲玉ぴゅ〜』:哀川翔主演。鉄砲玉に任命されたチンピラを主人公にした傑作
壬生智裕(みぶ・ともひろ)
福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、特に国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても映画祭パンフレットなどの書籍も手掛ける。
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