(…前編「ソリッドなサウンドと柔らかビジュアルとがどう結びつく?」より続く)
【映画を聴く】『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』/後編
意外な選曲が三角関係をコミカルに演出
アダム・ホロヴィッツが本作で音楽を担当することになったのは、プロデューサーであり実姉でもあるレイチェルの計らいだろう。前述のように、本作の音楽はビースティ・ボーイズのそれとはまったく異なるので、ファンが彼の音楽を目当てに本作を見ると肩透かしを食うかもしれない。しかしここでの彼はその該博な音楽知識を活かし、実に手堅い作品重視の選曲で見る者を楽しませてくれる。音楽家としてではなく、DJとしてのアダムのセンスが遺憾なく発揮されているわけだ。
冒頭まもなく流れ出すのは、オールド・スカ。上品な室内楽やジャズで映像の洗練された雰囲気に何となく合わせるのではなく、ヒロイン=マギーの聡明さと天然っぽさを併せ持つキャラクターにまで踏み込んだ、意外ながらも絶妙な選曲だ。レベッカ・ミラー監督も自分の映画にスカが流れるとは想像していなかったそうだが、その意外性が気に入って採用したとか。そのほかにも本作では古いラウンジ・ミュージックやラテン・ミュージック、ブルース・スプリングスティーンまで幅広い楽曲が使われており、プロデューサーのレイチェルはそれらひとつひとつの権利関係をクリアにし、使用許可を得ていったという。
日本でもスチャダラパーやHi-STANDARDなど多くのフォロワーを持つビースティ・ボーイズだが、2012年にメンバーのMCAことアダム・ヤクウが病死。現在その活動は事実上停止している。脚本家の父を持ち、自身も役者やライターとして活動するアダムだけに、今後は映画音楽家としての顔もちょくちょく見せてほしいところだ。(文:伊藤隆剛/ライター)
『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』は1月21日より全国公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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