【元ネタ比較】『クズの本懐』/後編
桜田通の麦役に違和感
一見理想的な高校生カップルの裏のドロドロな恋愛事情を描いた横槍メンゴ原作による「クズの本懐」がアニメ化、実写ドラマ化され、両方とも放送中だ。
ドラマ版で気になるのはやはりキャスティングだ。ヒロインの花火は全日本国民的美少女コンテストでグランプリを受賞し、芸能界入りした吉本実憂が扮している。原作の可憐な雰囲気と違っているので不評なようだが、アゴや肩のラインがうっすらとイカついところに内包的なふてぶてしさを感じて、個人的にはなかなかいいと思う。
しかしながら、麦には違和感がある。演じているのはミュージカル『テニスの王子様』で主役を演じたこともある桜田通。彼が演じる麦がはっきり言って、気持ち悪い。髪を遊ばせないサラサラヘアで、ナイーブそうなキャラクターは確かに原作のままではある。もちろん、チャラければ、エロが単なる遊びに見えて意味が違ってしまう。でも爽やかさがないと、ねっとりと変態っぽくて、それはそれで意味が違ってくるじゃないか!
これはドラマ全体にも言えることで、ねっとりしっぽり隠微な雰囲気が漂い、ただただエロを目指しただけに見えてくる。原作やアニメにある、乾いたカサブタのような痛々しさが感じられないのだ。
モノローグがカットされていることも一因だろう。自虐的なツッコミが減ってくるし、どのような感情の流れがあって行為に至ったかが見ている側に伝わらないシーンがあるために、エロが唐突に思えるのだ。体と心は切っても切れないという微妙な揺らぎを感じさせるのではなく、ただ客寄せとしてエロ要素を取り入れただけにしか感じられない。
花火と麦が初めて関係を持つのが、原作では麦の部屋なのに、ドラマでは体育館倉庫というお決まりのシチュエーションなのも、ただエロさを盛り上げるようという魂胆なのかと思えてくる。
それでいて、エロシーンがなんだかぎこちないのだ。マンガやアニメと大きく違うドラマならではのポイントは、当然のことだが“リアリティ”だ。生身の人間が演じているのだから、見てはいけないものを見ているような気さえしてくるほど、生々しさが感じられる。そこはドラマの利点だろう。
ただ、生々しいだけに、ちょっとした動きや息づかいも否応なく伝わってくる。そうした時に、高校生同士のたどたどしさという演出ではなく、どこまで見せていいか表現していいか探っている作り手側が見える気がして興ざめしてしまうのは残念だ。
アニメ、ドラマともに回を重ねて中盤に差し掛かり、麦の片思い相手である茜のクズっぷりが露呈し、花火が親友と百合展開へと突入し、ドロドロドラマに拍車がかかってきた。原作もまだ連載中とあって、どのようなクライマックスを迎えるのか読めず、今後ますます目が離せない。原作の世界観を楽しみたいならアニメを、リアルな生々しさを感じたいならドラマをおすすめしたい。もちろん原作、アニメ、ドラマ、すべてを見比べて、「クズの本懐」にどっぷり浸るのも一興だ。(文:入江奈々/映画ライター)
『クズの本懐』アニメ版はフジテレビ“ノイタミナ”にて毎週木曜24時55分から放送中、ドラマ版は毎週水曜日25時55分から放送中。
入江奈々(いりえ・なな)
都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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