【映画を聴く】『彼らが本気で編むときは、』前編
オーガニックでスローライフな荻上トーンに寄り添う
江藤直子の優しい劇伴
荻上直子監督の5年ぶりの長編『彼らが本気で編むときは、』は、生田斗真の演じるトランスジェンダーのリンコを中心とした“家族”の物語。広い意味では『海街diary』『家族ごっこ』『そして父になる』『マルモのおきて』といった作品に連なる“疑似家族もの”と言えるが、リンコを中心に据え、セクシュアル・マイノリティへの理解が進まない日本の現状を浮き彫りにしているという点では荻上監督のフィルモグラフィー中、もっとも具体的なメッセージを持つ内容に仕上がっている。
・生田斗真なのに生田斗真じゃない不思議な感覚!『彼らが本気で編むときは、』
とはいえ、『かもめ食堂』や『めがね』で見られたオーガニックでスローライフな荻上トーンは本作でも健在。おなじみフードスタイリストの飯島奈美が手がける食卓、富田麻友美による美術は、リンコと彼女の恋人のマキオ(桐谷健太)、彼の姪っ子のトモ(柿原りんか)による奇妙ながらも折り目正しく、愛情に満ちた共同生活をリアリティたっぷりに演出する。
本作ではマリンバやサックス、トロンボーンを用いたシンプルかつミニマムな劇伴を提供。十分に“間”を生かしたその作風は、これまでの荻上作品と大きく変わらないように思える。しかし途中でブラームスのヴァイオリンソナタ第3番などを劇中曲として盛り込み、作品のドラマ性をやや強調している点が、これまでとは違っている。
エンディング・テーマは、エドワード・マクダウェルの「野ばらに寄せて」。江藤は編曲とヴァイオリンを担当し、リンコとマキオとトモの60日間を優しく、しかしどこか客観的に締めくくる。
(【映画を聴く】『彼らが本気で編むときは、』後編/絶妙にマンネリ感を回避! 平凡な日常のかけがえのなさを伝える)
『彼らが本気で編むときは、』は2月25日より公開される。
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