『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』
カンヌでブーイングのNetflixとブラピが組んだ風刺コメディ
現在開催中のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門のプレス上映で、Netflixの社名ロゴが映るとブーイングが起きるという。同社がコンペに出品した2作のフランス国内での映画館上映を拒否したことから、映画祭側は来年から出品の条件にフランス国内での映画館での上映を付け加え、スクリーンで映画を見る伝統と配信サービスの利便さをめぐる論争が起きているのだ。
・ブラッド・ピットのプロデュース力がスゴイ! 他社がしり込みするような企画で次々成果
そのNetflixと、今年のアカデミー賞受賞作『ムーンライト』などを手がけた製作会社“プランBエンターテインメント”が組んだのが『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』。主演はPlan Bの代表を務め、本作でもプロデューサーに名を列ねるブラッド・ピットだ。彼が演じるアメリカ陸軍大将が、アフガニスタン駐留米軍の司令官に任命され、意気揚々と現地にやって来るところから物語は始まる。
自己陶酔男をブラピが嬉々として熱演
今回ピットが演じるのは架空の人物、グレン・マクマーン大将だが、もちろんマクリスタルを基にしたキャラクターだ。勝つことが何よりも大事で、1日1食、睡眠は4時間、朝食前に11キロ走るのが日課というストイックな軍人は、自分を偉大な傑物だと思っているが、その歩き方や走る姿同様、自信過剰な思い込みは傍目には滑稽だ。だが、周囲には彼に心酔し、言うことを何でも聞くイエスマンが揃っている。彼らを従えて自由で平和な国作りの理想を実現するべく、マクマーンは米政府やアフガニスタンの大統領との頭脳戦を繰り返しながら猪突猛進する。アクの強い軍人が、まさに話術を最大の武器に無理を通していく様子をピットが嬉々として演じている。白髪頭で、歩き方や走り方がちょっとおかしくて、狂気をはらみながら人を惹きつけてやまない。ピット以上の適役はいないだろうと思わせる。
マクマーンは次第に自らの力に酔い、大義名分よりもエゴを満たすことに心を奪われてしまう。現実を見ない力を持ち、自らの理想を追求して突っ走る。そんな人物が権力を持つとどうなるか? 映画で描かれている時代や撮影が行われた一昨年よりも、今や誰もがよくわかっているはずだ。
監督は『アニマル・キングダム』のデヴィッド・ミショッド。脚色も手がけたミショッドの演出は、現代における戦争の異常さを驚くほど露骨に暴いていく。ニュースを見ながら誰もが思うこと、建前の正義の裏にある本音について、遠慮なく切り込んでいく。このあたりは、現在のハリウッド作品ならば二の足を踏む率直さだ。ノンフィクションをフィクションとして脚色しつつ、事実を最大限盛り込んでいく。なぜアメリカは戦争をしたがるのか、その戦争のやり方から、男の髪が白くなっていく理由、オバマ大統領の「Yes we can」という言葉の真意についての解釈まで、ユーモアとゾッとするような戦争の真実が共存する風刺コメディだ。
ピットの右腕として有名な“プランB”の女性プロデューサー、デデ・ガードナーは常々、死ぬほど語りたいストーリーを映画にすることが使命だと語っている。そこで彼らが選んだパートナーがNetflixだったのだろう。本作は日本を含め、全世界でネット配信という形で公開される。撮影は『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズや『オデッセイ』をはじめ近年のリドリー・スコット作品で活躍するダリウス・ウォルスキー。シネマスコープの映像はできれば大きなスクリーンで堪能したいが、たとえ家庭にある小さな画面であっても、環境が整うのであれば見逃すのは損な問題作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ウォー・マシーン:戦争は話術だ!』は5月26日より全世界同時オンラインストリーミングされる。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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