独善的で強欲で無情! 嘘と裏切りがぎっしり詰まった負け犬の一発逆転劇とは?

#ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ#週末シネマ

 『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』
(C)2016 Speedee Distribution, LLC. ALL RIGHTS RESERVED
『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』
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世界最大のファストフード・チェーン「マクドナルド」の創業者がいかに世界最強のハンバーガー帝国を築いたかを描く『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』。業績の冴えないセールスマンがやっと見つけたチャンスに食らいつき、常軌を逸した根気で成功を手にしていく姿を、『スポットライト 世紀のスクープ』のマイケル・キートンが熱演している。

[動画]マクドナルド創業者の野心がスゴイ/『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』予告編

10代の頃から装飾リボン、収納用品、紙コップなどのセールスをしてきたレイ・クロックは、50歳を過ぎても成功とは無縁で、商品のマルチミキサーを積んだ車で地方営業に明け暮れる日々を送っていた。門前払いを食らってばかりで宿に戻って聴くのは、根気強さの重要性を説く自己啓発書「積極的考え方の力」の朗読レコード。あのドナルド・トランプ大統領も敬愛するというノーマン・ヴィンセント・ピールのベストセラーだ。

そんなある日、ミキサーの注文が入る。いきなり6台という発注は間違いではないかと先方に電話すると、さらに2台追加するという。景気のいい話に、クロックは自らカリフォルニア州の注文者のもとへと出向く。それが、注文を受けてわずか30秒でハンバーガーを提供するバーガーショップ「マクドナルズ」を経営するマクドナルド兄弟との出会いだった。1954年のことだ。

あまり健康によろしくない食事の代名詞として挙げられがちな現在のマクドナルドだが、真の創業者マクドナルド兄弟は品質重視で事業拡大には関心を示さなかった。兄弟で考案した「スピード・サービス・システム」に誇りを持ち、自分たちでコントロールできる範囲を超えるものは望まない。そんな職人気質の兄弟に対して、大きなビジネス・チャンスの匂いを感じ取ったクロックは彼らにどこまでもしつこく食い下がり、ついにフランチャイズ化を実現させる。かくしてパートナーとなった両者だが、やがて事業拡大と利益優先のクロックと兄弟との確執は深まっていく。

これだけ問答無用の押しの強さ、欲しいものは必ず手に入れ、不要になれば容赦なく切り捨てる無情さがありながら、なぜ52歳まで成功しなかったのか不思議なくらいだが、過去の失敗を知る知人たちから冷笑まじりで扱われる悔しさもバネに奮闘する主人公を演じるキートンが素晴らしい。目的達成の手段は選ばず、糟糠の妻がいながらも気に入った女性が現れれば、たとえ人妻だろうとお構いなしにモーションをかける。クロックの強引さは、アメリカにおいては成功者には必要不可欠な要素として肯定的にすら受けとめられる面もあるかもしれない。だが、それにしても独善的で強欲、スマートさの欠片もない。負け犬の一発逆転物語の裏には嘘と裏切りが積み重ねられ、キートンは身も蓋もない正体をそのまま演じている。

『しあわせの隠れ場所』『ウォルト・ディズニーの約束』のジョン・リー・ハンコック監督は、ビジネスでの成功以外に価値を見出さないクロックを、賞賛も批判もせず描いた。それは偶然にも、別の誰かの伝記映画のようにも見える。(文:冨永由紀/映画ライター)

『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』は7月29日より全国公開される。

冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。