(【映画を聴く】『エル ELLE』前編/ハリウッド女優が揃って尻込みしたショッキングすぎる話題作! )
【映画を聴く】『エル ELLE』後編
ポップミュージックが示唆する主人公の怪物生
(…前編より続く)『エル ELLE』の音楽は、『フル・モンティ』や『クライング・ゲーム』などで知られるイギリスの作曲家、アン・ダッドリーによるスコアが中心となっている。オープニングからエンディングまでが陰影感のある室内楽曲で揃えられており、随所に前編で触れたようなベートーヴェンやモーツァルト、ラフマニノフらの有名曲が使用される。それらの音楽は、60代半ばとは思えないイザベル・ユペールの美しく優雅な身のこなしと完全にシンクロ。作品の“外側”を甘く官能的にコーティングしている。
いっぽうで、イギー・ポップの「Lust For Life」やロキシー・ミュージック「Do The Strand」、チリー・ゴンザレス「Knight Moves」といったポップミュージックは、本作ではイザベル演じるミシェルの“内側”に潜むアクレッシヴな怪物性を想起させる役割を担っている。トム・フーパー監督の『レ・ミゼラブル』では音楽プロデューサーを務めていたアン・ダッドリーだけに、本作でも作曲家としてだけでなく、プロデューサー的な才覚が大いに活かされているようだ。
原作は、『ベティ・ブルー/愛と劇場の日々』の原作と脚本を手がけたフィリップ・ディジャン。この原作を読んでヴァーホーヴェン監督は「常識を捨て去る決意をした」そうだが、本作は結果的に製作サイドのみならず、見る者すべての従来的な考え方をひっくり返してしまうような、強烈な作品に仕上がっている。
『エル ELLE』は8月25日より全国公開。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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