ティム・バートン監督とジョニー・デップの黄金タッグ8度目の作品とのことで、早くから注目を集めている『ダーク・シャドウ』。楽しみにしているファンも多いはずだ。筆者もティム・バートンのファンである。おのずと期待もハードルも高くなってしまうことを、最初に断っておきたい。決して本作はつまらない作品ではない。18世紀と20世紀のふたつの世界を創り出した、美術も音楽も衣装も、みな称賛すべき出来だ。では、なにゆえ歯切れが悪くなっているのか……。
・[動画]『ダーク・シャドウ』ジャパンプレミア/ジョニー・デップ、ティム・バートン監督ほか
本作の基ネタは、アメリカで1966年から71年の昼時間に放映されていたテレビドラマ。今回、製作にも名を連ねるジョニデも、彼からの依頼で監督を引き受けたティムも、出演者のひとりであるミシェル・ファイファーも、みなオリジナル版の熱狂的なファンだ。
奇妙な面々に家族の物語。『ダーク・シャドウ』の情報を聞いたとき、ティム・バートンのかつての作品『ビートルジュース』が頭をよぎった。だが、『ダーク・シャドウ』の世界を蘇らせるには、ティムもジョニデもBIGになりすぎたのではないだろうか。
1750年にイギリスから新天地アメリカへと渡り、水産業で成功を収めたコリンズ夫妻。その息子のバーナバスは、すくすくと育ち、召使のアンジェリークに手を出すなど、女遊びもお盛ん。だが、運命の女性ジョゼットと出逢ったことで、アンジェリークを捨てる。しかしあろうことか、アンジェリークは真の魔女だった!
彼女の呪いでジョゼットは命を落とし、バーナバスはヴァンパイアへと姿を変えられ、さらに生きたままで地中深くに埋められてしまう。そして偶然から掘り起こされ、蘇ってみると、時は1970年代だったというわけ。時代は様変わりし、コリンズ家もすっかり落ちぶれていた。バーナバスは「一番の財産はお金ではなく家族」との父の言葉を胸に、一族の復興を決意する。だが、そこに再び、いまや町の支配者のごとく成長を遂げた水産会社の社長アンジーこと、魔女のアンジェリークが立ちふさがる。
バーナバスが蘇る時代を、オリジナルの60年代から70年代へと移したことで、時代錯誤に陥るバーナバスと、加えて70年代の濃い文化を眺める現在の観客という二重構造の可笑しみが発生。笑いはブラックなものも含めてふんだんで、成功している。
だが、肝心な家族の物語がどうにも薄いのである。バーナバスと末裔の物語ではなく、バーナバスとその他うんたら、の話になってしまっているのだ。ミシェル・ファイファー扮するミセス・コリンズやハリウッドで引っ張りだこのクロエ・グレース・モレッツちゃん演じる少女など、もっと活かせそうなキャラクターが揃っているだけに、なんとももどかしい。確かにバーナバスへの愛情の深さは感じる。でもならば、いっそのことタイトルを『ダーク・シャドウ』ではなく、『バーナバス・コリンズ』にしてしまったほうが潔かったように思える。全体に、ティムらしい毒と、何より“影”があまり感じられないのも残念。
そんななか、ひとり気を吐くのが、エヴァ・グリーン演じる魔女アンジェリークだ。振り向いてもらえぬ相手を、世紀を越えて想い続ける(呪い続ける)アンジェリーク。個人的には彼女の存在が一番気になって仕方なかった。最後のほうなんて、彼女に同情しちゃって、しちゃって。かつてのティムならば、アンジェリークにこそ、温かな眼差しを向けるのではないだろうか。なのに……。彼女に向けたバーナバスの止めの一言が、筆者にはどうにも消化できなかった。
とはいえ、本作はジョニー・デップのファンには問題のない作品。彼の役作りは変わらず個性的だし、最初から最後まで出ずっぱりで、不満なく楽しめる。だがティムのファンとしてはさらなる恨み節も。手作り感丸出しで、そこがよかった『フランケンウィニー』が長編3Dアニメになってこの冬、公開される。『ビートルジュース』続編の話も浮いたり消えたりしている。個人的にはかつての作品に触るのはやめて、今の彼ならではの作品を生み出していただきたい。ま、その結果生まれたのが『バーナバス・コリンズ』(あ、いや、『ダーク・シャドウ』ね)ということになるのだが。そうか、求められているのは、受け止めるこちら側の変化だったのか。
『ダーク・シャドウ』は5月19日より全国公開される。(文:望月ふみ/ライター)
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