家族がそろうお正月。初詣でに出かけた後は年賀状をチェックして、ゆっくり団らんを楽しんで……と家での時間を堪能した後は映画館に出かけてみてはいかが? 胸がすくようなアクション、ファンタジックな冒険物語から楽しく笑えるコメディ、家族や人と人のつながりを描く感動のドラマまで、幅広い作品のなかから、あなたが選ぶ今年1本目の映画は?
●『007/スカイフォール』
ダニエル・クレイグがジェームズ・ボンドを演じる第3作にして、シリーズ生誕50周年を記念する作品。監督は『アメリカン・ビューティー』のサム・メンデス。敵役は『ノーカントリー』のハビエル・バルデム、ボンドの上司Mはおなじみのジュディ・デンチ。オスカー受賞監督、俳優がそろった本作は、スパイ活劇であると同時に、ボンドとサイバーテロリストのシルバ、MI6長官Mの関係をじっくりと描く見応えのあるドラマになっている。世界各地に潜入しているMI6工作員のデータが奪われ、犯人を追跡中にボンドは狙撃される。Mは事件の責任をとって辞職するよう迫られる。やがてリストを奪った犯人はMI6本部を爆破し……。かつての冷戦時代とは形も規模も違う敵を相手に戦う21世紀のボンド映画は、新しい世代の台頭と古い流儀を対比しながら展開する。ストイックなダニエル・クレイグ版ボンドは色っぽい場面は控えめだが、危機に直面してもドライなユーモアは忘れない英国男子の魅力はたっぷり。金髪に薄気味悪い笑顔で怪演のハビエル・バルデム、ある意味今回の主役といってもいい活躍で有終の美を見せるジュディ・デンチが盛り上げる。Q役のベン・ウィンショー、アルバート・フィニーやレイフ・ファインズも好演。冒頭の追跡シーン、迫力のクライマックスなど、アクションの演出もぬかりない、エンターテインメント大作だ。
●『フランケンウィニー』
ティム・バートン監督が1984年に製作した同名の短編ストップモーションアニメ作を同じ手法で長編映画化したモノクロ3D作品。内向的なオタク少年・ヴィクターが科学の授業にヒントを得て、交通事故死した愛犬スパーキーを雷のエネルギーを利用して蘇生させる。だが、屋根裏に隠していたスパーキーの存在はやがて周囲に知られることとなり……。愛犬を起用して8ミリのヒーロー映画を撮るヴィクターは、バートン本人の少年時代を投影したかのよう。優しい両親、変わり者の科学教師、個性豊かな級友たち、無理解な大人たち、そしてツギハギだらけの姿になっても愛くるしいスパーキー。ユニークなキャラたちが繰り広げる騒動はやがて、自分を失わないことの大切さ、愛の温かさを説いていく。細部にこだわる演出で、バートンの大好きなホラー映画の数々への目配せが効いている。スパーキーが埋葬されたペット霊園に眠るキティの墓標には「ハロー」でなく「グッドバイ」と記されていたり、画面の隅々まで見るのが楽しい。ウィノナ・ライダーやマーティン・ショート、マーティン・ランドーといったバートン作品になじみ深い俳優が声の出演をしている。
●『グッモー・エビアン』
17歳で未婚の母になったアキと中学3年生の娘・ハツキ、実父ではないがハツキの生まれる前からアキと暮らしてきたヤグ。そんな不思議な関係の3人の日々を描いた吉川トリコの小説を映画化。パンクバンドのギタリストだったアキを麻生久美子、同じバンドのヴォーカリストだった2歳年下のヤグを大泉洋が演じ、思春期を迎えて風変わりな家庭環境に疑問を持ち始めるハツキを雑誌「Seventeen」のモデルで女優としても活躍中の三吉彩花が演じる。型破りで自由な大人を麻生と大泉が楽しそうに演じ、そんな2人を前に苛立つ少女の揺れ動く様を三吉がみずみずしく表現。ハツキの親友・トモちゃんを演じる能年玲奈のちょっぴり寂しげな笑顔も印象的。笑っている人が心の奥にしまい込んだ悲しみ、だからこそ持てる優しさを、明るいユーモアで包んでさわやかに描く。夫婦でも親子でもないけれど、家族。生きるうえで本当に大切なものは何かを教えてくれる作品だ。
●『シェフ!〜三ツ星レストランの舞台裏へようこそ〜』
ジャン・レノがパリの三ツ星レストランのシェフを演じる人情コメディ。長年三ツ星評価を守り続けたものの、冒険心を失ってスランプに陥ったベテランシェフのアレクサンドルが、偶然、天才的な味覚と腕を持つ若手料理人ジャッキーと出会う。「星が1つでも減れば、店は別のシェフに任せる」とオーナーに宣告されたアレクサンドルは、次の品評会に出す新しいレシピのため、ジャッキーを雇い、その力を借りようとするが、ジャッキーは才能を過信気味で生意気な性格。おまけに、もうすぐ出産を控えたジャッキーの恋人は彼が無断で安定していた前職を辞め、アレクサンドルの下で働き始めたと知って激怒。アレクサンドルの方も大学生の娘との関係がギクシャクしていて、2人とも仕事に集中しきれない。衝突を繰り返し、回り道しながら前進していく凸凹コンビぶりが楽しい。ライバル店の敵情視察のため、日本人(侍と芸者もどきの姿)に変装する場面など、くだらない笑いもふんだんに盛り込まれている。画面に登場する美味しそうなフランス料理と合わせて、お屠蘇(とそ)気分で気楽に見たい。
●『最初の人間』
「異邦人」「ペスト」などで知られるノーベル文学賞作家アルベール・カミュの未完の遺作を映画化。当時フランス領だったアルジェリアに生まれ育ったカミュの自伝的内容で、50年代後半、独立運動が起きる故郷・アルジェリアにフランスから戻ってきた作家コルムリの物語。彼は今も同じアパートに暮らす老母を訪ね、40年以上も前の20世紀初めの記憶をよみがえらせていく。第一次世界大戦で父が戦死し、母と2人で厳格な祖母と暮らした日々は常に地中海の青さ、まぶしい陽光とともにあった。優しい母親、貧しい境遇を生き抜く力を授けることだけを考える祖母、コルムリの利発さに気づいて学業を奨励してくれた恩師の存在、フランス人であるコルムリに敵意をむき出しにするアルジェリア人の級友。彼らとの交流が現在と過去を行き来しつつ描かれ、アルジェリアとフランスの複雑な関係を表すと同時に、人と人、人と国の関係をも感がさせる。カミュ作品の象徴でもある太陽と海、アルジェリアの大地の豊かさを存分に収めた映像は必見。息をのむほど美しい。
●『ホビット 思いがけない冒険』
『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの前譚となる「ホビットの冒険」の映画化3部作の第1部。舞台は『ロード・オブ・ザ・リング』の頃より60年前の中つ国。フロドの前に指輪を持っていたホビット族のビルボ・バギンズが主人公だ。魔法使いのガンダルフに誘われ、ドラゴンに奪われたドワーフ王国を取り戻すため、13人のドワーフたちと旅に出る。ゴブリンや凶暴なアクマイヌ、魔術師たちが神出鬼没の荒野を進み続けるビルボはゴラムと出会い、中つ国の運命を左右する指輪を手に入れる。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでイアン・ホルムが扮したビルボの若き日を演じるのは『ラブ・アクチュアリー』やテレビシリーズ「SHERLOCK」のワトソン役でもおなじみのマーティン・フリーマン。ガンダルフ役のイアン・マッケラン、ゴラム役のアンディ・サーキス、エルフの王妃・ガラドリエル役のケイト・ブランシェットら、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのキャスト、そしてフロド役のイライジャ・ウッドも、同シリーズのピーター・ジャクソンの下、再集結。仲間が力を合わせて歩み続ける勇気の物語が新たに始まった。原作者であるJ・R・R・トールキンの世界を自身のスタイルで描く作風は変わらない。空間の奥行きと速度を感じさせる3Dの映像は、前3部作からの更なる進化を感じさせる。
(文:冨永由紀/映画ライター)
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