【週末シネマ】期待通りの出来映え! 大御所俳優がズラリとそろった軽やかな人間賛歌

『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』
(C) 2011 Twentieth Century Fox
『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』
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『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』
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『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』
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『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』

イギリスのベテラン俳優たちが異国の地で織り成す群像劇を、第71回アカデミー賞受賞作『恋におちたシェイクスピア』のジョン・マッデン監督が料理した『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』。さぞかし、ウィットに富んだ大人な笑いと洒落た人間ドラマが楽しめるだろうと期待して観てみると、まさに期待したとおり。以上でも以下でもない、驚きはないが落胆もない、危うさのない佳作であった。

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“神秘の国インドの高級リゾートホテルで、穏やかで心地よい日々を”の謳い文句と優美な写真に惹かれて、イギリスから熟年層の男女7人が不安と希望を胸にインドへと向かう。それぞれの成り行きを矢継ぎ早に紹介しつつ、抱えている事情や長年培ったであろう気質までもさらりと見せ、いざ出発の日に空港のロビーに居合わせた7人を映し出す。観客は知っているが、本人たちは知らない者同士が集うという群像劇のお約束シーンにニンマリとなり、熟年たちの哀愁と滑稽さが漂う姿に心は引き込まれ、これから待ち受ける展開にこちらも不安と期待が胸に広がる。

着いた先のホテルはやはりこちらの予想通り。ゴージャスや優雅なんて言葉とはかけ離れた、改装中のぼろホテルだ。しかし、亡き父から譲り受けた若い支配人は悪びれず、物も捉えような取り繕いの言葉を言い放ち、情熱と希望に満ちている。

そのむかし、“インドに行けば人生観が一変する”とインド一人旅がブームだった頃、インドに行った先輩から聞いた話を思い出した。現地の人に道を尋ねると、たとえ目的地を知らなくてもとりあえず「こっちだ」とでたらめな道を教えてくれるのだとか。正しいか間違っているかではなく、とにかく踏みとどまらずに前に進むことが大切、そんな楽観的なお国柄があるのかもしれない。町に出ればビビッドな色彩で溢れ活気に満ちており、そんなエネルギッシュなインドの風に吹かれて熟年たちは少しずつ前を向き始める。

退職金を貸した娘が事業に失敗してイギリスで家を買えなかったダグラスは、部屋の水道管を修理しただけで小さくて大きな達成感を持つ。扮するのは『スティル・クレイジー』や『ラブ・アクチュアリー』で中年ミュージシャンを嫌味に演じたビル・ナイ。高慢ちきでナルシストな役もお似合いだが、今回は不満だらけの妻に言われっぱなしのショボくれたオヤジを好演している。

また、先立たった夫が多額の負債を負っていたため家を手放したイヴリンには、『007』シリーズの“M”役でお馴染みのデイムの称号を持つ名女優ジュディ・デンチ。夫に頼りっきりだったいままでの人生から打って変わって、異国の地に飛び出し、生まれて初めての仕事に就き、これまでの経験をもとに自分でも気づかなかった能力を発揮する女性をイキイキと凛と演じている。

そして、忘れられない想いを胸に秘めて思い出の地であるインドにやってきた元判事役は、恰幅のいい『フィクサー』のトム・ウィルキンソン。インド嫌いだが手術のために仕方なくやってきた偏屈なミュリエルは、映画人生も長く、最近では『ハリーポッター』シリーズのマクゴナガル先生として知られるマギー・スミス。他にもイギリスの名優勢がズラリと揃うなか、ホテル支配人役で『スラムドッグ$ミリオネア』のデヴ・パテルがフレッシュな風を送り込む。

芸達者なアンサンブル演技で見せる、切なさとやるせなさを笑いでくるんだ熟年たちの人生模様。酸いも甘いもある人生だが、苦味やえぐみまで暴き出そうとはしない。インドについてもカースト制度をちらちと覗かせるが、必要以上に見せつけようとはしない。華麗な寺院や建築、パワフルな人々とカラフルな色彩に満ちた市場などエキゾチックで魅惑的なインドを見せてくれる。いい意味で踏み込まず、人に優しい気品ある姿勢がいい。

高齢化問題が重くのしかかる日本、邦画界は勢いがあると言われている昨今だが、これだけのいわゆる大御所俳優を揃えて、こんなにも軽やかな人生賛歌が邦画で作られるだろうか。軽妙洒脱なイギリスの気質がちょっとうらやましく思えた。(文:入江奈々/ライター)

『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』はTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開中。

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『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』作品紹介