『ザ・コーヴ』困難乗り越え7月3日上映決定。これまでの抗議の全貌も明らかに!

ジャーナリストの田原総一朗
ジャーナリストの田原総一朗
ジャーナリストの田原総一朗
マンガ家の石坂啓(左)と一水会顧問の鈴木邦男(右)
映画監督の崔洋一
激しい反発を受けるなか、『ザ・コーヴ』の上映に踏み切った各劇場の支配人たち。左から松村厚(大阪/第七芸術劇場)、神谷雅子(京都/京都シネマ)、平野勇治(名古屋/シネマテーク)、長澤純(仙台他/フォーラムネットワーク)
『ザ・コーヴ』配給会社アンプラグド代表の加藤武史

東京2館、大阪1館の計3館が抗議活動を受け上映を取りやめるなど、“反日映画”と称され、街宣車も押しかける激しい上映反対運動が起こっている映画『ザ・コーヴ』。マスコミでも連日のように取り上げられているこの映画が、全国22館で7月3日より順次公開されることが、6月21日に弁護士会館で開催されたシンポジウムで発表された。

『ザ・コーヴ』作品紹介
[動画]『ザ・コーヴ』予告編

また、同シンポジウムには、本作の上映を決めた4劇場の担当者と、同映画の配給元代表の加藤武史。司会進行の月刊誌「創」の篠田博之と弁護士の日隅一雄。ほかにジャーナリストの田原総一朗、漫画家の石坂啓、映画監督の崔洋一、一水会顧問の鈴木邦男らも登壇。映画と抗議活動について、意見を交わした。

『ザ・コーヴ』は、和歌山県太地町で古くから行われているイルカ漁を、イルカ保護の立場から批判したドキュメンタリー映画。昨年の東京国際映画祭で上映され物議を醸したが、上映禁止を求める抗議活動が始まったのが、「今年3月8日に、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞してから」と、配給元のアンプラグド代表・加藤武史は言う。

そもそも、アンプラグドが本作の配給を決めたのが、昨年12月頃。「正式な契約は1月でしたが、日本での公開にあたって、東京国際映画祭の頃から一部抗議がありましたので、それに配慮しつつスタートしました」と語る加藤。強引な主張や、隠し撮りなどの撮影手法の是非について意見が分かれ、早くから賛否両論が渦巻いていたからだ。

それがアカデミー賞で注目を浴びると、賞賛の声と同時に、激しい非難も浴び始める。そして、3月末、「主権回復を目指す会」を名乗る男性から電話が入る。内容は「上映を中止しろ、中止しなければ抗議に行くぞ」というもの。この日は「抗議等がありましたら書面でお送りください」と対応した加藤だが、数日後には警察から「その団体が街宣活動が私たちの配給会社の前で行う」という情報をいただいたと同氏。実際に2日後の4月9日に、最初の街宣活動が、配給会社前の道路で30人規模で行われた。

以降、同団体による街宣活動は、配給会社に2回、加藤の自宅で2回の計5回行われたという。アンプラグド側も顧問弁護士と協議した上で、街宣活動の禁止仮処分を東京地裁に申し立てるなどの策を講じるが、結果的に配給元への抗議活動こそなくなったものの、それが劇場側に飛び火。東京2館、大阪1館の計3館が上映を取りやめる事態に陥ったそうだ。

そんな経緯を経て、公開自体が危ぶまれた『ザ・コーヴ』だが、いろいろな声の後押しもあり、この日、無事に上映館を発表。シンポジウム会場には、大阪の第七芸術劇場、京都の京都シネマ、名古屋のシネマテーク、仙台ほかのフォーラムネットワークと、上映4劇場の支配人も駆けつけた。4劇場とも、2年前に話題となった『靖国』も上映していたそうで、今回との違いについて言及。第七芸術劇場の松村厚は「今回は『靖国』と違って抗議の内容も非常に短く、盗撮映画であること、反日映画であることいった簡単な内容を主張し、上映を中止してくださいというもの。靖国では長い電話が多かったが、今回は短かった」と答えていた。

また、京都シネマの神谷雅子は「活動をされている方々の実像がよくわからないことに、正直困惑もしている」と答え、『靖国』に対する抗議の中心だった右翼とは、異なる団体による抗議であること話していた。

その団体について一歩踏み込んだのが「創」編集長の篠田。この日、同じく上映を決めている劇場の1つである、横浜ニューテアトルの支配人が欠席したことに触れ、「今一番の攻防戦は横浜ニューテアトル。今日も街宣がかかっていて来られなかったが、今までの『主権回復を目指す会』による抗議ではなく、今日からは、本格的な右翼団体の街宣がかかり始めた」と発言。これまでの「主権回復を目指す会」がネット右翼的団体だったのに対し、従来型の右翼がついに顔を出したと告げていた。

また、漫画家の石坂啓は、今回の活動の方向性について「映画館ではなく、映画を作った方に文句に行くことは全然ないんですか? アメリカ人相手に抗議行動をすべきで、アカデミー賞事務局に街宣車で行ったら、ある意味、褒めちゃったりしますけど」とコメント。

一水会顧問の鈴木邦男は「今回の場合、ネットで何月何日にみんなで集まろうと言っただけで、映画館が上映を辞めた。でも、映画館にとってそれは恐怖。恐怖でやめさせるなんてテロと同じ。今、例え実効性がなくても、ネットで誰々を殺すといったら、それだけで逮捕されます。今回は、それよりも悪質。そういう意味でも警察は、もっとまじめに考えて欲しいと思います」と発言。

田原総一朗は「私たちの作るノンフィクションとは全く違って、これは宣伝映画。宣伝映画が悪いとは言っていない。でも、普通だったら『何でイルカを捕るんだ、イルカを殺すんだ』という質問から入るが、この映画の作り手は、初めからそういう質問はなく、和歌山の太地町は敵で、漁民は犯罪者だと決め込んでいる。だから、ノンフィクションではなく宣伝映画であるが、宣伝映画としては良くできている。大がかりに隠し撮りをし、最後に血の海を見事に撮るなど、愉快か不愉快かといえば不愉快だが、不愉快だからといって見てはいけないということはない。そういう意味では面白い映画」とコメント。

崔洋一監督は「率直な感想をいうと、大変うまくできている。ただ、見終わって思ったのは、どこが反日なんだ、ということ。この映画は、ある意思をもって作られた映画なので、フェアな検証のもとに作られた映画というのは難しい。でも、逆にいうと、反日映画なので上映やめろというのは、どう考えてもわからなかった」と話していた。

『ザ・コーヴ』は7月3日より全国順次公開となる。

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