【週末シネマ】デキる女の勝手な言い分に思わず共感!のラブストーリー
『セレステ∞ジェシー』
クインシー・ジョーンズの娘でハーバード大卒の才媛で、女優・モデルとして活躍し、L.A.のトレンド発信者と言われるラシダ・ジョーンズが共同脚本・主演をつとめた『セレステ∞ジェシー』。自分らしく生きるキャリア女性の等身大のラブストーリーとあって、鼻につく嫌味な恋愛モノなんじゃないかと懸念しつつ試写に臨んだ。
しかし、そんな心配は吹き飛び、好感が持て、共感もしてしまった。まぁ、堂々と胸を張って「共感した」と言うのは気が引けなくもないが。そもそも、才人の娘や学歴だのという背景にしろ美貌にしろ、私とはなにひとつ共通項がないのだからして。
でも、このヒロインのセレステが会社経営者のやり手ながら、パートナーのジェシーと中学生レベルのド下ネタで盛り上がってじゃれ合う姿にはひく人もいるかもしれないが、私はキュートで好感を持った。それに、ジェシーとの間に事件が持ち上がったときの取り乱しようとその醜態には、苦笑しつつも身につまされてしまった。思い出したくはないが、思い当たる節がある。
さらに、ざっくりと個人的な感触で言うと、作品のテイストもL.A.舞台のアメリカ〜ンなラブストーリーというよりは、セリフのやりとりで暗中模索してゆくNY舞台の作品の匂いがして、そこも好感が持てた。後で知ったところによると、ラシダはウディ・アレンの『アニー・ホール』が好きだそうだが、それも納得だ。
共感したと堂々と言いづらい要素はほかにもある。ヒロインのセレステは客観的に見ると、恋愛でうまくいかなかったとしても仕方ない、自業自得のどうにも困った女なのだ。
学生時代に意気投合して結婚したジェシーとは今でも趣味やノリも合うし、一緒に居れば居心地も良くご機嫌な関係。でも、セレステはメディア・コンサルティング会社の経営者として仕事は充実している一方、ジェシーはいつまでも売れないアーティストで、2人は社会生活や日常生活で格差ができてしまう。かといってお互い嫌いになったわけでもなく、わだかまりも持たずに仲良くいる今の状態を持続させるには、と考えたセレステは離婚して友だちでいるのが一番ベスト、という結論に至る。永遠に親友でいましょう、というわけだ。
しかし!この“親友”には暗黙の条件がある。他の女性には目を向けないこと、だ。「恋愛関係でなく永遠に親友でいましょう。ただし、私だけを見ていてね」と。そんな女の言い分ってどうよ? そうだよね、男側からしてみれば、なんじゃそりゃ!?だよね。
でも、セレステが夫婦ではなく、友だちという関係を選ぶのはよくわかる。頼りない芸術家肌の男性にプレッシャーを感じさせることなく、彼も彼らしく居られて、お互いにとっていいはず、と。セレステのなかでは理にかなってる、自分勝手なわけではない、2人にとってベストな道なのだ。
また、セレステは、ジェシーがお父さんでは子どもがかわいそう、とも言う。それも間違っていないだろう。くだらないことでも高尚なことでも話が合って一緒にいると面白い、そんなパートナーでも子どもの父親となって家庭を築くとなれば話は別。それこそ男にも酷というものだったりする。女側からしてみると物分りがいい器の大きい女だと自負さえするかもしれない。
セレステは間違ってはいないだろう。彼女自身も言うように正しくあろうとした結果なのだ。でも、正しさばかりが人として生きる道とは限らないものだ。セレステを見ていると、ときとして、正しさから外れた道を歩むことも人生には必要だということを思い知らされる。ああ、精神的に自立して自己完結してる正しい女って損だなぁ、と溜め息が出てしまう。そして、そんな自己完結してる女に打撃を与えるのは、悪い道を行くこすっからい女などではなく、善悪とは違う次元で生きる、いくつになっても“女の子”な女子なんだよなぁ、ということでまた、さらに深い溜め息も出る。
ある程度人生経験を積んで、大人になった分別ある女性こそ、客観的にはどうしようもなく自分勝手なセレステの気持ちがよくわかるんじゃないだろうか。小娘ではなく大人なセレステだからこそ、恋愛でつまずくと、他人からの目を意識して取り繕うことなくジタバタしてしまうことにも頷いてしまう。そのセレステのリアルにみっともないさまは恋愛に人生に真剣である証拠だし、潔さも感じる。そして、なによりも自分が生きてきた人生を否定することなく、自分らしくいることを失わないでいる姿に安堵感と爽快感も感じるのだ。(文:入江奈々/ライター)
『セレステ∞ジェシー』は5月25日より渋谷シネクイントほかにて公開中。
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