(…前編「クイーンとフレディをファンタジーに押し上げるための“史実との相違”」より続く)
【映画を聴く】2018年の総まとめ/後編
もっと評価されるべき名作『アリー/スター誕生』
『ボヘミアン・ラプソディ』人気が続いている影響もあってか、前評判も上々だった『アリー/スター誕生』が日本ではいまひとつ盛り上がっていないが、こちらも音楽映画のもうひとつの大本命として上映されているうちに劇場で見ておきたい一本だ。古典映画のリメイクにしてレディー・ガガその人の半生とも密接にリンクした本作は、ド派手な衣装や煌びやかなサウンドを取り払っても色褪せない彼女の音楽的ポテンシャルを明示する。彼女と対等に渡り合うために未経験だった歌とギターを猛特訓したブラッドリー・クーパーのパフォーマンスも大きな見どころだ。
音楽映画ではないけれど、音楽がとても印象的だった作品としてまず思い出されるのが『レディ・バード』。主演のシアーシャ・ローナンとグレタ・ガーウィック監督の一心同体ぶりを演出するジョン・ブライオンのスコアが控えめながらもとにかく美しい。“子ども”から“大人”へと成長するかけがえのない瞬間を、有機的なスモールコンボによる演奏で優しく包み込んでいる。本作に使われた音楽は、劇中歌をまとめた通常のサウンドトラック集とジョン・ブライオンによるスコア集に分けてリリースされているが、特に後者は個人的にも気に入ってよく聴いた音楽作品である。
邦画ではやはり細野晴臣が音楽を担当した是枝裕和監督の『万引き家族』か。音楽としての主張は極限まで抑えられ、ほとんど風の吹く音や水の流れる音と同じぐらい風景に溶け込んでいる。“細野晴臣の音楽”を期待して見ると肩透かしを食うほど匿名性の高い音楽だが、あるとないとでは大違いという不思議な存在感。それは日本の音楽シーンを半世紀に渡って“暗躍”してきた細野晴臣本人の活動スタンスともリンクしている。
2019年はどんな映画を“聴く”ことができるのか。聴き逃しのないように、アンテナをしっかり張って待機しておきたい。(文:伊藤隆剛/音楽&映画ライター)
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
出版社、広告制作会社を経て、2013年に独立。音楽、映画、オーディオ、デジタルガジェットの話題を中心に、専門誌やオンラインメディアに多数寄稿。取材と構成を担当した澤野由明『澤野工房物語〜下駄屋が始めたジャズ・レーベル、大阪・新世界から世界へ』(DU BOOKS刊)が刊行されたばかり。
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