『マン・オブ・スティール』
バットマンを“ダークナイト”として再生したクリストファー・ノーランが製作・脚本を手がけ、『300〈スリー・ハンドレッド〉』のザック・スナイダーを監督に迎えた『マン・オブ・スティール』。今回は70年以上も前から愛され続けているヒーロー、スーパーマンを“鋼鉄の男”として、その誕生からヒーローとしての覚醒までを描く。
胸にSマークをつけ、マントを翻すヒーローのイメージは、78年から始まったクリストファー・リーヴ主演の『スーパーマン』の印象が強烈だ。宿敵とは熾烈な戦いを繰り広げるが、平時には困った人を助けて「ありがとう、スーパーマン」とお礼を言われ、「どういたしまして」と返す。そんな牧歌的な光景も忘れがたい。だが、ノーラン&スナイダー版はシリアスに徹する。主人公はひたすら悩み、自分のルーツ探し求めて、さすらう。
映画は、生まれたばかりのわが子・カルを滅びゆく惑星クリプトンから地球へと送る天才科学者、ジョー・エルとその妻、それを阻止しようとするゾッド将軍の反乱の物語から始まる。次に、現代の地球で放浪の旅を続けながら驚異的能力で人命救助をする青年のエピソードを重ねていく。エピソード毎に、地球へたどり着いたカルが農業を営むケント夫妻の息子・クラークとして愛情深く育てられていく過程が薄皮をはがすように浮かび上がっていく。単純に時系列に並べない語り口が、観客をヒーロー成長の旅へと引き込む手法として功を奏している。
クラークを演じるのはテレビシリーズ『THE TUDORS〜背徳の王冠〜』や『インモータルズ −神々の戦い−』の英国俳優、ヘンリー・カヴィル。アクの強さでは宿敵・ゾッド将軍役のマイケル・シャノンに大きく水をあけられるが、品の良い端整な佇まいが、ひた隠しにしてもにじみ出る“選ばれし者”らしさを醸し出す。
幼い頃から自分が周囲とは違うことに気づき、戸惑う。そんな息子をそのまま受け止めつつ、類稀な能力を隠して生きることの大切さを説く育ての親をケヴィン・コスナーとダイアン・レインが演じているが、この2人の名演も見逃せない。特に、普通の男として、“父親”というヒーローの役目を全うするコスナーは素晴らしい。生みの親であるジョー役のラッセル・クロウ、敏腕記者のロイス・レイン役のエイミー・アダムス、とキャストに名優が揃い、3Dの迫力とスピード感あふれるスケールの大きいアクションとドラマの双方が引き立つ。
ヒーローに本当に必要とされる強さとは力なのか、心なのか。そんなことも考えさせる前半の重厚なドラマ、そして、アメリカ軍も巻き込んで故郷の町から大都会メガロポリスまで破壊の限りを尽くしながら、父の仇でもあるゾッド将軍と死闘を繰り広げる後半の大バトル。すべてが過剰で、ドラマティック。ノーランとスナイダー、それぞれの資質が相乗効果を生んだ超大作だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『マン・オブ・スティール』は8月30日より新宿ピカデリーほかにて全国公開中。
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