大人になると、かつてその年齢だった頃の自分の親について記憶をたどることがある。あんな無理難題を押しつけようとしていたのか、と今の自分と照らし合わせて思う。親もまだ大人として未完成だったと気づく。そんな感覚を繊細に描いたのが『ワイルドライフ』。『オクジャ/okja』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』などで知られる演技派、ポール・ダノの長編監督デビュー作だ。
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1960年、モンタナ州の小さな町が舞台の本作は、ピューリッツァー賞受賞作家のリチャード・フォードの同名小説を、ダノがパートナーで女優・脚本家のゾーイ・カザンと共に脚色も手がけている。14歳の少年と両親の慎ましくも穏やかな日々が、父の失業をきっかけにほころびを見せ始め、変わっていく様がきめ細かい演出で描かれる。
お手本として慕いたい父親のふがいなさ、頼りない夫に対する醒めた気持ちを隠そうともしない母親の振舞い。多感な少年は、立派な大人であるはずの両親もまだ迷いの中にいる事実を思い知る。ジョーを演じるのはオーストラリア出身のエド・オクセンボールド。両親への愛情ゆえに3人の中で最も耐えることを強いられ、誰よりも大人になるしかない少年の心の機微が、物静かな佇まいからあふれる。
大切な一人息子の目の前で修羅場を繰り広げ、大人げなく感情むき出しの両親を演じるのはキャリー・マリガンとジェイク・ギレンホール。彼らもダノ監督も30代だ。他の出演作でのイメージから、10代の子を持つ役には若すぎるのでは?と思いかけたが、劇中のジェリーやジャネットは彼らと同年代。そこでふいに、そういえばあの時、自分の親は……という感慨が呼び起こされるのだ。
ダノは影響を受けた映画監督として小津安二郎、エドワード・ヤンの名を挙げているが、映像やストーリーの語り方に、尊敬する監督たちのタッチがうかがえる。こう落ち着くのか、という結末まで、静かにエモーショナルだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ワイルドライフ』は7月5日より全国順次公開。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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