【週末シネマ】『マチネの終わりに』
美しく、不器用な大人の純愛描く
数年前、“素敵な大人の男性”ともてはやされていた俳優に、大人の恋愛映画をやってみたくないですか?と聞いたことがある。彼の答えは「おじさんとおばさんの恋愛なんか誰も見たくないですよ」というものだった。それから10年も経っていないが、社会の風潮も少し変わったのかも、と思わせるのが中年の男女の恋愛映画『マチネの終わりに』だ。
・クスリと笑える軽やかさが持ち味! 是枝裕和監督が奏でる仏米のハーモニー
主演は福山雅治と石田ゆり子。2人とも年齢不詳という枕詞付きで紹介されることが多いが、年齢を気にしすぎる日本の風潮に逆らうように、若く、だが生きてきた時間にふさわしい落ち着きがある。彼らが演じるのは世界的なクラシックギター奏者・蒔野聡史とパリ在住の国際ジャーナリスト(継父は世界的映画監督)・小峰洋子。共に40代。なかなかドラマティックであると同時に「ありそう」と思える設定だ。
友人に誘われて蒔野のコンサートに出かけ、紹介された瞬間から洋子は彼と心を通わせる。自国にとどまらず、広い世界を相手にしているわりにはナイーブな2人なので強く惹かれ合うのも頷ける。洋子にはアメリカを拠点にする経済学者の婚約者(伊勢谷友介)がいる。蒔野には、演奏以外の仕事一切を任せる若いマネージャー・三谷早苗(桜井ユキ)がいた。2人ともかなり強烈なキャラクターで、主人公と対照をなす配置だ。
日本とパリに離れて暮らし、メールやビデオ通話のやり取りで関係を育んだ蒔野は、婚約者の存在を知りながらも洋子に自分の想いを告げる。そして2人は東京での再会を約束するのだが……。
誰もが携帯電話やSNSで連絡を取り合う今どき、すれ違いなんてどうやって表現するのかと思っていたら灯台下暗しの奥の手があった。蒔野はそういう設定に説得力を持たせる人物像だ。シンガーソングライターであり、俳優である福山は、ほどよく王子様でちょっとだけ浮世から離れたアーティストをうまく演じている。上原謙や佐野周二といった往年の二枚目スターのような雰囲気もあり、ロマンティックな場面も臆さずに堂々と世界を構築する。対する石田には生活感があり、現実を生きる女性の柔らかい強さがある。カフェで女同士が対面するシーンで見せる、あらゆる感情を押し殺して尊厳を保つ姿はとてもエレガントだ。
『マチネの終わりに』は11月1日より公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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