【週末シネマ】『ハスラーズ』
2日(現地時間)にアメリカで開催されたスーパーボウルのハーフタイムにジェニファー・ロペスがシャキーラと登場し、大迫力のパフォーマンスを披露した。ダイナミックな動きと鍛え抜いた肉体を駆使したポールダンスが圧巻だったが、さらに強烈な魅力を放つのがニューヨークのストリッパーを演じた『ハスラーズ』だ。
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2008年に起きたリーマン・ショック前後の実話を映画化した本作は、生活費を稼ぐためにストリッパーになる決意を固めた中国系女性が、“デスティニー”の芸名を得て歩み始めるところから始まる。彼女に目をかけ、ストリッパーの極意を伝授する姐御肌の先輩ラモーナを演じるのがロペスだ。2人は友情を育み、順調に稼いでいたが、リーマン・ショックの不況の煽りで大打撃を受ける。
一度仕事を離れるが、ともにシングルマザーのデスティニーとラモーナは再びストリップクラブに戻り、やがてラモーナはデスティニーやストリッパー仲間たちと手を組んで、ある計画を立てる。真面目に働く人々を苦しい生活に追い込んだ張本人たち=ウォール街で働く男たちから金を巻き上げるのだ。
せしめた大金を自分や家族のために惜しみなく使う。彼女たちの行為は犯罪であり、断罪されて当然なのだが、常に下に見られて尊重されることもない立場を逆手に取り、大金を持っているだけの勘違い男を騙す過程は胸のすくような痛快さがある。『クレイジー・リッチ!』のコンスタンス・ウーがデスティニーを演じ、若手シンガーのキキ・パーマーとNetflixオリジナルの『リバーデイル』で知られるリリ・ラインハートが、ラモーナたちと行動を共にするメルセデスとアナベルという若いストリッパーを演じる。監督は、『エンド・オブ・ザ・ワールド』のローリーン・スカファリア。ロペスとプロデューサーに名を連ね、脚本も手がけている。リーマン・ショックの裏で大儲けをした男たちを描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15年)の監督・脚本を務めたアダム・マッケイもプロデューサーの1人だ。リーマン・ショックとその後を異なる視点から見つめた作品として2本合わせて見るのも興味深い。
女たちの悪だくみが軌道に乗り、手を広げるために仲間を増やしたあたりから、歯車が狂い始める。調子に乗ってしまう浅はかさも、怖じ気づいた時の逃げ足の速さも、腹を括った後の強さも、きれいごとだけでもなく、ただ悪に染まるばかりでもない彼女たちの振る舞いはいちいちリアルだ。登場するストリッパーたちの大半は非白人。彼女たちはガッツの塊で、頭も体もフル回転させて大金をせしめる。カモにされるのは白人男性だ。
ジェニファー・ロペスはゴールデン・グローブ賞や映画俳優組合(SAG)賞で助演女優賞にノミネートされ、その他の映画賞で受賞もしているが、第92回アカデミー賞ノミネーションでは彼女も含めて本作は完全無視された。投票権を持つ会員の最多数が年齢が高めの白人男性という同賞においては、好意的に受け入れられなかったのは、当然と言えば当然。だが、それは『ハスラーズ』という作品がどれだけ彼らの痛い所を突いたかとを示すものでもある。
今年は、『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』や『フェアウェル』など、評判の高い女性監督作品への冷遇、俳優部門の候補がほとんど白人ばかりになったことなど、多様性に欠けるノミネーションが物議を醸したが、スーパーボウルのハーフタイム・ショーを機に、この問題は再炎上している。この点からも、『ハスラーズ』は過渡期にあるハリウッド映画のマイルストーンとなる作品だ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ハスラーズ』は2月7日より公開。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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