沖縄の農村を舞台に、逃げ出したやぎと、それを追う子どもたちの姿を描いた『やぎの冒険』。監督はなんと14歳の中学生! 日本映画史上、最年少となる仲村颯悟(りゅうご)監督の劇場映画デビュー作が、1月8日より公開となる。
・[動画]『やぎの冒険』仲村颯悟監督ティーチイン
・プロの脚本にもしっかりダメ出し! 中学生監督が日本映画の商業主義にもの申す
沖縄で昔から食されてきたやぎ。独特の風味があり、若い世代からは敬遠されつつあるものの、新築や進級、出産など様々な祝の場でやぎをつぶし、人々にふるまう習慣もあるという。本作は、そんな食文化を目の当たりにしてショックを受けてしまった少年の物語だ。
主人公は那覇の都会に暮らす12歳の裕人。冬休み、沖縄本島の北部にある母親の実家を訪れた彼は、祖父母や親戚たちと楽しい日々を過ごしていたが、あるとき、この家に来てから可愛がっていた2頭の子やぎのうちの1頭がいなくなっていることに気づく。
気まずそうな祖父からその行方を聞き海岸へとやってきた裕人は、そこでやぎの解体現場を目撃し、大きな衝撃を受ける。
その後、もう1頭の子やぎも食用にされるため連れ出されるが、ひょんな事故からその子やぎが逃げ出し、裕人たちは子やぎを捕まえるべく追いかけっこを始めるはめに……。
牧歌的ともいえるほどにシンプルなストーリーと長回しを多用した余白の多い映像。古き良き日本映画を彷彿とさせるこの作品を14歳の少年が撮ったとは不思議な気がするが、イマドキ、こんなにゆったりとした映画を作ること自体が冒険であり、若いからこそ可能な決断の賜物(たまもの)と言えるだろう。
中学生監督のデビュー作ということで、彼を支えるプロデューサーをはじめとした大人たちは、女の子を登場させるなど商業的に成功させるための補強策を試みたが、仲村監督は拒否。編集についても、大人主導で作られていった作品を、ある時点でほとんど組み直し、思い通りの編集に仕上げたのだという。また、これ見よがしな泣き顔のアップもナシ。こうして出来上がったのが、映画作りへの喜びにあふれ瑞々しい感性が光る本作だ。今、自主制作映画以外でこのように初心を貫けるなんて、もしかしたら奇跡に近い出来事なのかもしれない。
仲村監督は年齢こそ14歳と若いが、小学生の頃からビデオカメラ片手に作品を撮り始め、すでに40本近い作品を監督している。2009年に行われた沖縄観光ドラマコンペティションに出した「やぎの散歩」の脚本が選出され、短編を撮影。本作はそれを基に新たに作られた映画だ。
最近は余白の少ないテレビドラマ的映画も多いが、史上最年少の映画監督が作った作品が、往年の日本映画の良さを引き継いだかのような間(ま)の多い作品というのはとても興味深い。本作では観光地ではない沖縄の日常を描いたという仲村。気負わず気取らない本作は、スッキリとした清々しさに満ちている。
『やぎの冒険』は1月8日より池袋テアトルダイヤほかにて全国順次公開される。
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