【週末シネマ】逆説的なタイトルを掲げ、原発問題に正面から体当たりした『希望の国』

『希望の国』
(C) The Land of Hope Film Partners
『希望の国』
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『希望の国』

逆説的なタイトルだ。舞台は近未来の日本。東日本大震災の後、再び大地震によって“長島県”という架空の地にある原子力発電所で事故が発生する。自宅の庭が警戒区域の境界となる家族がいる。そんな彼らや、突如として平穏な生活を奪われ、避難民となった人々が暮らす場所を、園子温監督は『希望の国』と名付けた。

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現在公開中のドキュメンタリー『フタバから遠く離れて』は、福島第一原発から3キロの双葉町から埼玉県に避難を余儀なくされた人々に焦点を絞った定点観測の作品だが、『希望の国』は園監督が複数の被災地を取材して作っていった物語。極力、当事者から聞いたままの言葉を台詞にしていったという。そのためだろう、両作に共通するエピソードもいくつかある。被災した多くの人々が元の生活に戻れていない現時点で、これを主題にドキュメンタリーではなくフィクションを作るという選択は、昨年の震災直後、宮城県石巻市で『ヒミズ』のロケを敢行し、9月のヴェネチア映画祭で世界にその光景を見せた園監督ならではだ。

劇中に3組のカップルが登場し、それぞれが「絶望」「共生」「希望」を象徴する。自宅の庭が原発から半径20キロ圏内と圏外の境界となる酪農家の老夫婦、県外へ避難する息子夫婦、自宅が圏内に入った隣家の息子とその恋人だ。老夫婦を演じる夏八木勲と大谷直子は共に、今まで見せたことのない表情で“覚悟を決めた”老夫婦を演じる。大谷が扮する認知症の妻には故郷を奪われた者たちの心情が託されると同時に、監督の母親像も投影され、愛情深く描かれる。夏八木は、自分の家族は自分で守るという信念を貫く男の無骨な優しさを見事に表現している。

住む場所や家族を失いながらも生きていく若いカップルが希望を表し、老親と離れて避難生活を送る息子夫婦は共生、すなわち放射能と共に生きる姿を象徴する。新しい土地で妊娠に気づいた妻は放射能の脅威から身を守ろうと、街を歩くにも防護服を着込むようになる。夫は戸惑いながらも少しずつ妻を理解していくが、そんな2人を嗤う住民の姿など、黒澤明の映画のように、わかりやすく黒白をつける描き方だ。敢えての“あざとさ”で原発問題に正面から体当たりする『希望の国』は、原発が全て停止したとしても、その瞬間に放射能が消えてはなくなるわけではない“共生”という現実にも目を向けている。(文:冨永由紀/映画ライター)

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