『世界にひとつのプレイブック』
人はみな自分のなかに“やっかいな”部分を抱えている。いくら周囲からは完璧に見える人であっても、心の内は複雑。だからこそ人は魅力的だともいえる。
アカデミー賞8部門ノミネート(演技部門は全ノミネート!)の『世界にひとつのプレイブック』には、そうした“やっかいな”部分を多分に抱えた不器用な人たちが、そこここに登場する。作品紹介などを読むと、妻の浮気現場を見てしまい心を病んでしまった主人公パット(ブラッドリー・クーパー)と、彼と出会う、夫を亡くしたことで心に傷を抱えたヒロインのティファニー(ジェニファー・ローレンス)のふたりが、自らの心をコントロールすることのできない不器用なキャラクターの代表のように思える。
だが、実は必ずしもそうではない。パットやティファニーは、確かに病院や薬の世話になっているものの、いわゆるその他の普通とされる人々も“やっかいな”自分を抱えている。
本作には、我々にもどこか通じる、だがちょっとばかり個性の強い面々の紡ぐ物語なのだ。そんななかでも突出した演技と魅力を見せるのが、ジェニファー・ローレンス。まだ22歳と若いが、2010年の『ウィンターズ・ボーン』でアカデミー賞主演女優賞に初ノミネート、昨年は大作『ハンガー・ゲーム』で主演をつとめるなど、上り調子の女優である。
だが、筆者はこれまで彼女にそれほど興味を抱いていなかった。確かに上手い女優だろう。存在感もある。でも無責任な言い方だが、単純に好みではなかったのだ。だがしかし、『世界にひとつのプレイブック』で、遅ればせながら、ジェニファーにガツンとやられてしまった。
ティファニー役はかなりぶっ飛んでいる。精神的に病んだ過去があるせいでもあるが、彼女本来が持つ性格も多分に感じられる。ティファニーは、妻から接近禁止令を出されているにも関わらず、自分と妻との愛は本物だと信じ続けるパットの、バラバラになっていた心のピースを拾い、元通りにしていく……のではなく(!)さらに、ぶちまける!! それが結果として、かつてのパットを取り戻すのではなく、新たな彼の誕生へと繋がっていくのだ。
そして自身も不器用の塊のようなティファニーも、不器用なりに、今の彼女のハートがベストだと感じる行動に従い、新たなピースを拾い上げていくのである。
その過程に登場するのが、ダンスだ。ふたりはダンスのパートナーとして大会出場を決める。そして本当にニクイ人生の“点数”を叩き出す。今回のジェニファーは、特に女性の支持を受けるだろう。ロバート・デ・ニーロ相手に、全く臆することなく正論をまくし立てるシーンは最高だし、ダンス大会からのくだりでは、観ているこちらが彼女の心の動きと、完全に同化してしまう。突飛なヒロイン・ティファニーを演じるジェニファーに、心底やられてしまうのだ。そして、それはジェニファーが、誰しもが抱える“やっかいさ”を、恐れることなくさらけ出しているからに他ならない。(文:望月ふみ/ライター)
『世界にひとつのプレイブック』は2月22日より全国順次公開中。
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