反省なんかしたらつまんない! 崔洋一監督の人生哲学

崔洋一(Sai Yoichi)……1949年生まれ。大島渚監督や村川透監督などの助監督を経て、83年に『十階のモスキート』で劇場映画監督デビュー。『血と骨』(04年)では日本アカデミー賞最優秀監督賞ほか多数の賞に輝く。その他の代表作に『月はどっちに出ている』(93)『刑務所の中』(02)『クイール』(03)などがある。
崔洋一(Sai Yoichi)……1949年生まれ。大島渚監督や村川透監督などの助監督を経て、83年に『十階のモスキート』で劇場映画監督デビュー。『血と骨』(04年)では日本アカデミー賞最優秀監督賞ほか多数の賞に輝く。その他の代表作に『月はどっちに出ている』(93)『刑務所の中』(02)『クイール』(03)などがある。
崔洋一(Sai Yoichi)……1949年生まれ。大島渚監督や村川透監督などの助監督を経て、83年に『十階のモスキート』で劇場映画監督デビュー。『血と骨』(04年)では日本アカデミー賞最優秀監督賞ほか多数の賞に輝く。その他の代表作に『月はどっちに出ている』(93)『刑務所の中』(02)『クイール』(03)などがある。
 9月13日に新宿で行われた『カムイ外伝』のレッドカーペット・セレモニーにて。カムイ役の松山ケンイチと肩を組む崔監督。
『カムイ外伝』
2009年9月19日より丸の内ピカデリーほかにて全国公開
(C) 2009 「カムイ外伝」製作委員会

砂煙とともに地面から飛び出してくる忍者との格闘。流れる汗や息づかいまでもが伝わってくるような迫力あるアクション映画が『カムイ外伝』だ。

原作は、「週刊少年サンデー」「ビッグコミック」に連載された白土三平の同名コミック。理不尽な階級社会の最下層で生まれ育ったカムイが、一度は忍(しのび)の世界に身を投じながらも、掟に縛られたその世界から飛び出し、自由を獲得した代わりに、昔の仲間に追われ続ける姿が描かれてゆく。

今なお、多くのファンを魅了し続けているこの原作を映画化したのが、日本アカデミー賞最優秀監督賞に輝いた『血と骨』(04年)などで知られる崔洋一監督だ。武闘派との噂もある崔監督に、映画化に至るまでの経緯から、かつての武勇伝までを語ってもらった。

3秒後にはやろうって決めていた

──まずは『カムイ外伝』を監督することになった経緯を教えてください。
崔監督:『血と骨』が終わってから、『血と骨』のプロデューサーと、「次は何をやろうか」って話はしていたんです。ただ、企画を出し合っても、なかなかうまくかみ合わない。「作る意味がある」と思える企画でも、「やり抜こう」とまではいかなかったりして。そんなある日、「『カムイ外伝』みたいなのはどうかな」ってプロデューサーに聞かれ、3秒後には「やろう!」って決めてました。正確に言うと、もっと短い時間ですね。「カムイ外伝ってどうかな?」「やろう!!」って感じだったので、1秒ないくらい。一応、公式には3秒って言ってるんですけど(笑)。

──10代の頃からリアルタイムで原作を読んでいたそうですが、1人の読者から、監督として『カムイ外伝』に向き合ったことで、新たな発見や、作品に対する見方の変化などはありましたか?
崔監督:そりゃあ、読者としてリアルタイムに読んでいるときの方が楽しいですよ。頭の中で勝手に、自分が企画者であったり、プロデューサーであったり、監督であったり、主人公のカムイにだってなりきっているわけですから。
今、映画を完成させて思うことは、「これから僕は、昔の自分と同じように原作を愛読してきた何百万人ものファンと向き合わなければいけない」ということ。これが、とても難しい。
原作では、カムイも彼に関わる人も、みんな飛び跳ねたり、忍の世界で生きたり死んだりしている。恋や愛があれば、憎悪や裏切りもあって、小動物が自由闊達に動き回る一方で、立ち尽くすしかない人間たちが描かれていた。そういう画(え)を映像化することは、頭の中ではイメージできても、実際にワンカットずつ撮影し、1本の映画につないでいこうと考えると、問題も山積みになる。読者としては、これほど奇想天外で面白いものはないけど、作る側に回ってみると、困難なことだらけといった感じなんです。
だから、よく「この映画を見た何百万人ものファンが、こっちに向かって一斉に弓を引いてくるかも」と冗談めかして言ってます。そうなったら、「撃つなら撃ってみろ」と言うしかない(笑)。

──小栗旬さん、玉木宏さん、市原隼人さんをはじめ、ここ数年、若手男優の活躍が目立っています。そうした中で、監督から見た松山ケンイチさんの魅力は何でしょう?
崔監督:気骨があり、それでいて繊細な神経を持ち合わせていて、正直であることですね。彼のいろいろな面がミックスして、僕の中で松山ケンイチ像が立体的になってくる。そうした多面性があるところは彼の良いところだけど、かといって彼が、どんな人物にも変幻自在になれるわけではない。そこが好きなんですよ。演技の技術があって、うまくて、何でもできるってタイプじゃないところが。

──その松山さんに、カムイをどう演じてくれとリクエストしたのでしょう。
崔監督:「カムイになってくれ」と。

──松山さんの返事は?
崔監督:「う、う、うん」みたいな感じでしたね(笑)。

これ以上やると、現行犯逮捕します

──今回の撮影は、真夏の沖縄で過酷だったと聞きました。そもそも崔監督の現場自体、過酷だという噂をよく耳に挟みますが。
崔監督:そんなことないんですよ(笑)。僕自身、60歳近い大人として、それなりの常識は身につけているので。
ただ、常識があれば非常識だってあるわけで、いろいろなことが行ったり来たりするんだと思うんですよ。それこそ、うまくいく日もあれば、いかない日もあるし、僕の中にも、楽天的な部分と神経過敏な部分とがある。それが、撮影現場の雰囲気を醸し出していると言われれば、事実だと思います。うまくいっているときは機嫌が良いし、いっていないときはものすごく機嫌が悪いので。非常にわかりやすいんです。

──機嫌が良いときと悪いとき、どっちが多いのでしょう?
崔監督:それは、特に数えているわけじゃないので(笑)。
そう言えば昔、Vシネマが流行っている頃に、今回と同じ沖縄でロケをしたことがあって、ある日、スタッフルームに行くと、地図上のロケ地でもないところに赤いマークがいっぱい貼ってあり、みんなクスクスと笑ってる。俺は地図を見ながら、「何だよ、このマークは。ロケ地と近いじゃないか」と問い詰めるんだけど、それでも笑っていて。で、さらに問い詰めながら気づいたんだけど、マークが貼られている場所は、俺が怒って、誰かを殴った場所だったんですね(笑)。

──殴られた本人も、その場にいたんですか?
崔監督:一緒に笑っていました。あと、忘れもしないんだけど、イラン・イラク戦争の終わり頃に、米軍基地の前でトラックが走るシーンの撮影をしていたんです。道路使用許可証は取ってはいたんだけど、ちょうど、担当が近くにいないときがあった。
そんなことも知らずに、堂々と機動隊の一個中隊の前で撮影していると、中隊長がやってきて、「念のため道路使用許可証を見せてくれ」と。それで俺が、「おい、道路使用許可証だって、早く持ってこい!」と製作部に言ったら、慌てて担当者がやって来たものの、「あのー、あのー」と口ごもってる。業を煮やして「いいから早く出せよ」と言ったら、「担当が持ったまんま、次の現場に行ってまして」と。それを聞いてカーッとなっちゃって、「てめえ、この野郎、出せって言ったら出せ!」と。
直接、撮影の邪魔になっていたわけじゃないけど、そのときの俺にとっては機動隊の一個中隊が目障りだったのでしょう。向こうにとっちゃ、逆に「何だ、こいつら」って感じでしょうが。それで職務質問代わりに軽く聞いたつもりが、いつの間にか、俺に製作部の若いスタッフが殴られている状態になっていて。さすがに中隊長も慌てたみたいで、「監督さん、それ以上やると現行犯逮捕します」って(笑)。

──今回はワイヤーアクションに初挑戦しています。そのことに関して記者会見で「気分はジョン・ウー」と仰った後に、「やっぱり崔洋一は、どこまでも崔洋一」と続けたのが印象的でした。ご自身が思う崔洋一像とはどんなものでしょう?
崔監督:それを振り返られないところが崔洋一なんだと。振り返って、反省なんかしたら、すごくつまんないと思いますよ。もちろん、死ぬまでに1回や2回は反省すると思うんですよ。すべての人の意見を聞く瞬間もあるとは思うけど、そういうときはきっと俺がやばいとき。肉体か精神のどちらかが病んでいるんだと思いますね。

──骨太な作品を得意とする印象が崔監督にはあります。先ほどの機動隊との武勇伝(!?)を聞くと、ますますその印象が強まるのですが、監督自身、骨太な作品に対するこだわりはあるのでしょうか?
崔監督:そこは自分でも解明しづらいところですね。自分とは何かがわかっていたら、たぶん、映画監督になっていなかったと思う。ちょっと青臭いですけど、自分とは何か、そこに触れることが、映画を作ろうとする重要な要因になっているんだと思います。
でも、本音で言えば、まさか自分が映画監督になるなんて思ってもいなかった。たまたまアルバイトに行った先が、映画の撮影現場だった。はじまりは、ただそれだけだったのですから。

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