タイ・シェリダン
アメリカ南部の町に暮らす14歳の少年2人が、川の中州に住んでいる流れ者らしき男と知り合い、心を通わせていく『MUD−マッド−』。身勝手な大人たちに振り回され、理不尽な世間というものを学び取っていく少年の成長物語で、21世紀版『スタンド・バイ・ミー』との呼び声も高い。実際、少年2人の外見は『スタンド・バイ・ミー』主演のウィル・ウィートンとリヴァー・フェニックスに似せているようにも思える。今回、注目したいのはマシュー・マコノヒー扮する流れ者・マッドと友情を育む少年の1人・エリスを演じている現在17歳のタイ・シェリダンだ。
・【この俳優に注目】美貌の“狂王”を演じて一躍スターダムに躍り出た麗しき新星
アーカンソー州の川岸のボートハウスで離婚寸前の両親と暮らすエリスは、ある日、おじと2人で貧しい生活を送る親友・ネックボーンと川の中州の森へ行く。ネックボーンが見つけた森の木の上のボートを調べるためだ。昔起きた大洪水で流され、打ち上げられたまま何年も経過しているはずが、船内には人が生活している気配がある。慌てて立ち去ろうとした2人は岸辺で、そのボートをねぐらにしている男、マッドに出くわす。
いわくありげだが、少年たちに対して上から目線ではなく対等に接するマッド。エリスは請われるままに食べ物を提供し、身の上話に聞き入るうちに、彼に魅入られていく。運命の女性との劇的でロマンティックな愛の物語に心打たれ、彼らの逃避行に手を貸そうと奔走し、自らも年上の少女へ淡い恋心を抱く。詩的な中二病まっただ中の少年の憧れが大きく膨らむが、次第に露になる身も蓋もない現実がそれを木っ端みじんにする。
天真爛漫ではない屈託のある表情だが、大人を見上げる瞳に純粋な光をたたえた少年をタイは瑞々しく演じた。映画出演2作目で、経験を積んだ子役とは違う演技スタイルは荒削りだが、技術ではなく魂で反応する勘の良さは見事としか言いようがない。
その天性の役者ぶりに最初に気づいたのは寡作の巨匠、テレンス・マリックだ。2011年にカンヌ国際映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞したマリック監督の『ツリー・オブ・ライフ』で、タイはブラッド・ピット扮するオブライエンの三男で末っ子のスティーヴを演じた。撮影前に1年以上かけて行われたオーディションで最初に選ばれたのも彼だったという。マリックが望んだのは自身と同じテキサス出身でプロの俳優ではない少年。その条件を満たしたうえで、1万人以上の候補者から選ばれた3人のうちの1人だった。兄役の2人は『ツリー・オブ・ライフ』以降の出演作はないが、タイはロサンゼルスへの移住も考えるほど俳優という仕事に魅了された。ちなみに同作のプロデューサー、サラ・グリーンは『MUD−マッド−』も手がけていて、彼女がタイを監督のジェフ・ニコルソンに推薦したという。
続いて出演した『Joe(原題)』ではニコラス・ケイジの息子を演じ、昨年9月のヴェネチア映画祭で新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を受賞した。過去の受賞者にはジェニファー・ローレンス(『あの日、欲望の大地で』)、染谷将太と二階堂ふみ(『ヒミズ』)らが名を列ねる。今もっとも活躍する若手俳優たちをいち早く発見してきたこの賞に輝いた新星が、20代、30代と歳を重ね、どんなキャリアを築いていくのか、息の長い活躍を期待したい。(文:冨永由紀/映画ライター)
『MUD−マッド−』は1月18日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開される。
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