今世紀最高のピアニスト、マルタ・アルゲリッチの素顔に迫るドキュメンタリー『アルゲリッチ 私こそ、音楽!』が、今秋よりBunkamuraル・シネマほかにて公開されることが決定。これに先駆け5月3日に東京国際フォーラムで同作のプレミア上映が行われ、マルタの娘で本作の監督でもあるステファニー・アルゲリッチが来日し、小澤征爾氏の実弟である小澤幹雄氏と一緒にトークイベントに臨んだ。
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「日本は私にとって特別な国です」と語るステファニーは、「小さい頃からよく母に連れられて来ていました。母曰く、私が初めて歩いたのは日本だそうです」と日本との長年に渡る関係を告白。これに対し小澤は「マルタ・アルゲリッチさんはよく征爾とピアノコンチェルトをやっていたけれど、赤ちゃんを連れてきたことがありましたね。あれがステファニーさんだったのかな。肩が痛いなんて言っていて、征爾と僕は『赤ちゃんを抱いてきたからじゃないか』なんて話していましたよ」と昔話を披露した。
そんなステファニーが映画を撮ろうとした理由を小澤が尋ねると、ステファニーは「撮ろうと大きな決断をしたというより、今やらなくてはという衝動にかられたのです。11歳くらいから家にあったカメラで母を撮ってきました。自由に撮ってきた時期を経て、今映画にしたい気持ちにつながったという感じです」と回答。「映画は、自分が母親になったことが大きなきっかけです」と続けると、「老いていく両親を見て、今やらなくてはという緊急性を感じました。娘として母を見ていたときは批判的な視点もありましたが、母としてマルタを見たときにはその批判が軽減しました」と語った。
また小澤は「ファンがこの映画を見たら、びっくりするんじゃないかな。だって、あのアルゲリッチさんが、ノーメイクで髪はボサボサで出てくるんですよ」と話すと、ステファニーは「この映画は私の視点、私が母をどうみるかを撮ったものです。音楽ファンがマルタ・アルゲリッチの軌跡を見たいと望むなら、がっかりするかも。パジャマを着たアルゲリッチを見たくないかもしれませんね」とニッコリ。
それに小澤が「映画を見たお母さんはどんな反応だったのか?」と尋ねると、「母がこの作品を見たとき、画面のなかにいる自分に違和感を感じたそうです。『私がイメージしている私じゃないわ』とか『私、いい加減なこと言ってるわねえ』『自分でも理解できない』なんて言っていました」と報告。
「完成に近いかたちで両親に見てもらったんですけど、2人が修正を要求することは1度もありませんでした。2人とも寛容でしたね。いつも、演奏で真実を表現しようとしている2人だからこそ、私の意図を汲んでくれたんだと思います」と話すと、続けて「1点だけ母が、パジャマ姿の自分をみたとき、『赤いパジャマにすればよかったわ』と言いましたけど」と明かし、笑顔をのぞかせていた。
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