『百瀬、こっちを向いて。』
切なく残酷な珠玉の恋愛小説を映画化
巷にあふれるライトノベルだが、大人になってからも読んでいる人はどのくらいいるだろうか? おそらくは少ないんじゃないかと思う。大人が読むには値しないというイメージだろうし、“ライトノベル”という名称からして軽んじられている証拠だ。
・マイナー世界を掘り起こす達人・矢口監督の新作は『WOOD JOB!』
映画化もされたライトノベル「きみにしか聞こえない CALLING YOU 」(映画タイトルは『KIDS』/08年)などの作家・乙一は、ライトノベルが軽視されることを問題視しており、彼が中田永一の別名義で発表した小説が「百瀬、こっちを向いて。」である。というか、中田永一名義でも活動していることを乙一は後になって明かしたのだ。ちなみに「百瀬〜」は、気鋭の男性作家陣が紡ぐ恋愛アンソロジー「I LOVE YOU」に伊坂幸太郎、石田衣良、市川拓司、中村航、本多孝好らの作品と並んで収録された一遍である。
中田永一=乙一の作品は“切なさ”と“残酷さ”を感じさせるものが多く、そこにミステリー要素を絡めたストーリーテリングで読み手を引き込んでいく。「百瀬〜」はミステリーの読み物ではないものの、中田永一作品の真骨頂とも言うべき作品だ。
主人公は冴えない、本人評価“人間レベル(100点満点中)2”の高校生・ノボル。人間レベル90以上である人気者同士の先輩カップル・瞬と徹子は別世界の人間のようだが、実は瞬はノボルの幼なじみだった。ある日、ノボルは瞬に呼び出され、野良猫のように鋭い目つきの女の子・百瀬とつき合っているフリをするように頼まれる。要するにノボルに、瞬と百瀬の関係の隠れ蓑になってくれというのだ。女子に免疫のないノボルは突然の展開に戸惑いながら、擬似カップルを続けるうちに百瀬に思いを募らせていく。
付き合ってる者同士という、恋愛関係においてのメインキャストではなく、三角関係のカモフラージュという脇役がこの物語の主人公だ。設定からして切なく残酷なことは言うまでもない。そして、世の中には我こそはメインキャストだと胸を張っている人間よりも、脇役と感じている人間のほうが多いようで、この物語は多くの人々の共感を呼び、男性作家による恋愛小説だが、女性からの支持も高くベストセラーとなった。
多感な10代の心情を繊細に瑞々しく描き、平仮名を多用したやわらなか文体で女性に人気が高いのもわかる。映画版も原作に近い感触があり、大人の鑑賞にも値する、いや、むしろ大人となった今だからこそ理解できる愛おしい不器用さとノスタルジーを呼び起こす青春ラブストーリーとなっている。…中編へと続く(文:入江奈々/ライター)
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『百瀬、こっちを向いて。』は5月10日より全国公開される。
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