スカーレット・ヨハンソン
若くてきれいで、何でもできる。スカーレット・ヨハンソンは、10代の頃からそういう女優だ。女性らしい曲線美の肢体にハスキーな声と美貌のセックス・シンボルというイメージがまずあるが、それに卓越した演技力が加わる。そんな彼女も11月で30歳になる。
ということは、ゴールデン・グローブ賞や英国アカデミー賞を受賞した出世作『ロスト・イン・トランスレーション』や『真珠の耳飾りの少女』に出演したのはまだ20歳前だったわけだ。そもそも、それ以前に子役として『のら猫の日記』や『モンタナの風に抱かれて』など、あるいは『ゴーストワールド』やコーエン兄弟の『バーバー』で思春期の危うさを巧みに表現していた。改めて、その早熟な天才ぶりに感嘆するばかりだ。
20代のキャリアを、ウディ・アレン(『マッチポイント』『タロットカード殺人事件』『それでも恋するバルセロナ』)、ブライアン・デ・パルマ(『ブラック・ダリア』)、クリストファー・ノーラン(『プレステージ』)といった錚々たる顔ぶれの監督のもと、あるいは『アベンジャーズ』シリーズのような大作からインディーズ系の小規模作品の数々や、声だけでも十分に魅力的な『her/世界にひとつの恋人』など実に幅広い出演作で築いてきた。
ドラマ、アクション、サスペンス、ホラー、コメディ……本当に何でも揃うフィルモグラフィーだ。ハリウッドの第一線に身を置き、30歳を前にこれだけバラエティに富むジャンルに出演、しかも各ジャンルで必ず1つは代表作にしてもいい実績を残している女優はそうはいない。本物のオールラウンダーなのだ。
最新主演作『LUCY/ルーシー』では、本来10%しか機能していない人間の脳が覚醒し100%働き始めたら?という設定のもと、脳のリミッターが外され、凄まじいスピードで進化していくヒロインを演じる。
リュック・ベッソン監督の、アイディア1つで突っ走る演出は正直言って荒っぽい。だが、スカーレットは演技にまったく迷いを見せない。あれだけ名作の数々に出演している彼女なのだから、脚本の出来の良さや悪さ、監督やスタッフ、共演者の腕について、本当のところを理解していないはずがない。それでも、凡庸な設定や台詞を演じる瞬間は信じ切る。これはなかなか難しいもので、相当数の俳優、特に男性は「こんな芝居をやらされてます」という空気をごくわずかだが、醸し出す。その結果、何となく演じるキャラクターそのものがブレてしまって無惨なことになるのだ。そういう余計なことはせず、ただ演じることに徹するストイックさが美しい。
要は自信の問題なのかもしれない。根拠がなくても揺るぎない信念で突き通す。その点はベッソンと彼女には共通するもので、意外な相性の良さにつながったのかもしれない。
きれいに撮られなくても構わない、という気概もいい。けばけばしい衣裳と化粧でいかにも頭が空っぽそうに見える『LUCY』の冒頭など、ハリウッド作品で見慣れたゴージャスさの対極にある安っぽさが漂う。10月に公開される『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』は彼女のフルヌードも話題だが、これもまた磨き上げて作り込んだ美とは違うものを見せる。生々しさを持つ肉体に役を演じる器を自覚する精神。これが彼女を単なるセックス・シンボルで終わらせない理由なのだ。
まもなく婚約者でフランス人ジャーナリストのロマン・ドーリアックとの間に第1子が誕生予定。出産後しばらくは子育て優先をうかがわせる発言もしている。20代にして、女優一生分にも匹敵するキャリアを積んだ彼女が母親になり、30代からの「スカーレット・ヨハンソン第2章」をどう歩んでいくか。とても楽しみだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
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