原作と映画版はどうちがうの? どっちの方が面白いの!?「原作あり」の映画を、ライター・入江奈々がめった斬りする連載コラム!
ついにこの日が来た! あの大傑作が実写映画化
ついに私にとってのXデーが来てしまった。「ヒストリエ」の岩明均原作により1988年〜1995年に連載され、連載終了から20年近く経った今もファンを魅了し続ける奇跡的な大傑作漫画「寄生獣」がついに実写映画化されてしまった。
この物語の主人公は平凡で普通よりもヘタレなぐらいの一般男子高校生の泉新一。ある時、彼の右手部分が謎の生物・パラサイトに寄生されてしまう。実はパラサイトは本来は人間の頭部を乗っ取り、人間を捕食する生物だった。頭部を乗っ取ったパラサイトは人間に擬態し、人間社会に紛れながら捕食を拡大していく。頭部乗っ取りに失敗して右手に寄生したパラサイトの“ミギー”は人間を捕食せず、新一はミギーと共に他のパラサイトと壮絶な死闘を繰り返すこととなる。
あらすじだけ聞くと、よくあるSFアクションといったところ。しかし、有象無象の類似作とは一線を画すのだ。まず顕著なのは主人公と人類を脅かすパラサイトが共生していること。そして、これがポイントだが、パラサイトが知能を備えているということ。そのため、パラサイトの1体である田宮良子は「自分たちはなぜこの世に生を受けたのか?」と追究していく。
このように原作は哲学的な命題、食物としての動物と人間の命の重さ、環境を破壊して地球を蝕む人類の是非、と答えがでない壮大なテーマを提示する。しかし、もちろんそれを小難しく論じるわけではない。壮絶なスプラッタ・アクションとともに語られるのだ。そのアクションも戦術が回を追うごとにグレードアップする。さらに、それだけではなく、高校生としての家族のドラマや恋愛もあれば、普通の高校生ではいられない苦悩、主人公の精神的な成長、彼のバディとしてのミギーとの友情と葛藤、などさまざま要素を絡めて展開していく。それも、生半可なレベルではない。常に命をかけた状況なわけだから、家族ドラマも思春期の息子のいるほのぼのホームドラマから、親殺しの究極ドラマに転じてしまう。
そんなこの世のエンタテイメントをすべて凝縮したような作品なのだ。原作を愛する身としては、安易に実写化してガッカリさせられる憂き目には遭いたくないと強く願っていた。そもそも10年ほど以前にハリウッドで映画化権取得のニュースがあり、その後『THE JUON/呪怨』の清水崇監督がメガホンを取ると発表されたが、実現されないうちに映画会社の倒産騒動でうやむやになったのだ。どうせやるならクローネンバーグ監督御大が久々のSFの土俵で、R18の過激描写ガッツリな映画化でなければ許さん!と睨んでいたおかげかと喜んで気を抜いていたら、ここへきて日本であれよあれよという間に実写化が完成してしまった。
「さあて、いったい、どんな“寄生獣”を見せようというんだ」と上から目線で見てみたわけだが……。(…中編へ続く)(文:入江奈々/ライター)
『寄生獣』は11月29日より全国公開される。
・中編/原作の凄さはいずこへ? 上滑りして感情移入できない凡作『寄生獣』/人間くさ過ぎるパラサイトのミギー
・後編/原作の凄さはいずこへ? 上滑りして感情移入できない凡作『寄生獣』/駄作に至らず凡作という結果に
入江奈々(いりえ・なな)
1968年5月12日生まれ。兵庫県神戸市出身。都内録音スタジオの映像制作部にて演出助手を経験したのち、出版業界に転身。レンタルビデオ業界誌編集部を経て、フリーランスのライター兼編集者に。さまざまな雑誌や書籍、Webサイトに携わり、映画をメインに幅広い分野で活躍中。
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