映画『風に立つライオン』は、さだまさしの1987年のアルバム「夢回帰線」に収録された同名曲と、それをモチーフに本人によって書かれた2013年の同名小説を、三池崇史監督が映像化したもの。「名曲から生まれた壮大な感動巨編」というキャッチコピーに偽りはないが、たとえ「風に立つライオン」という歌を知らなくても、さだまさしのファンでなくても感じ入るところは多いであろう、スケールの大きな人間讃歌となっている。
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“企画:大沢たかお”とクレジットされているのは、この楽曲に感銘を受けた主演の大沢が、さだ本人に小説化をリクエストし、その映画化に大きく関わっているからだという。実際、小説のあとがきでも、さだまさしは「この物語は大沢たかおさんの強い奨めに従い、彼のために書いた」と記している。
アフリカ・ケニアで国際医療ボランティア活動に従事した実在の医師をモデルとする楽曲「風に立つライオン」は、もともとシングルではなく、アルバムのなかの一曲として発表されたもので、“音楽による世界旅行”をコンセプトとするアルバムの終幕曲という位置付けだった。しかしアルバム発売後、「日本に残してきた恋人の結婚の報せに対する返信」という形式の歌詞が反響を呼び、急遽シングル・カットされたという経緯がある。その曲はいまや、さだまさしの全レパートリーのなかでも屈指の人気を誇るスタンダードに“成長”し、ついに映画にまで発展。多くの医師や医療関係者、海外で暮らす在留邦人が、現在の自分に大きな影響を与えた曲として挙げることも少なくないというのだから面白い。作者にとっても予想外の広がりを見せた、思い入れ深い曲のようだ。
その歌詞の世界を押し広げ、同時代性を絡めた小説版「風に立つライオン」は、先述の通り大沢たかおの奨めに従ってさだまさし本人が執筆したものだ。主人公の島田航一郎医師を知る複数の関係者による回顧や述懐、メール文の羅列で構成されており、そこから航一郎という一人の人間の生き様を浮き彫りにしていく。大沢は、同じくさだの小説を映画化した『解夏』『眉山』にも出演しており、さだは本作の執筆時からすでに航一郎と大沢の姿を重ね合わせていたという。そういった流れを考えれば、「風に立つライオン」の小説化と映画化、そして大沢たかおの起用は、ある意味で必然の流れだったと言っていいだろう。(後編に続く…)(文:伊藤隆剛/ライター)
『風に立つライオン』は3月14日より公開される。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラの青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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