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漫画裏話とメタ構造
「漫画家を目指す少年たちを描いた漫画が実写映画化された。さあ、原作と映画版の違いを徹底分析だ!! 入江奈々先生の【元ネタ比較】が読めるのはムビコレだけ!!」……というわけで、『バクマン。』が公開だ!
「バクマン。」は「週刊少年ジャンプ」で2008年〜2012年にまで連載され、少年漫画読者のみならず女性も大人も、また業界関係者も熱狂させて、全20巻の単行本は累計で1500万部を突破した大ヒット漫画だ。作者は「ヒカルの碁」などの小畑健が作画を担当し、「DEATH NOTE」でも小畑と組んだ大場つぐみが原作を担当、大場&小畑コンビとしては「DEATH NOTE」から2作目となる作品である。物語は紆余曲折あれどシンプルと言えばシンプルで、コンビ漫画家を目指す少年2人が「週刊少年ジャンプ」で1番人気を取ろうと挑戦する青春ドラマだ。
これが目からウロコの画期的内容で非常な吸引力でぐいぐい引き込んでいく。いや、もちろん、漫画家がアイデアに行き詰まれば自分自身を描けばいいわけだから、手を出してしまいがちなのか漫画制作裏話はありふれたものではある。過去には漫画家裏話の金字塔でもある藤子不二雄Aの「まんが道」があるわけだし、相原コージ・竹熊健太郎による「サルでも描けるまんが教室」や、2014年にテレビドラマシリーズ化されたことも記憶に新しい島本和彦の「アオイホノオ」などたくさんある。
それでも「バクマン。」は似て非なるものと思わせるカギは、完璧なまでのメタ構造にあるかもしれない。「バクマン。」が連載されたのは漫画雑誌の最高峰と言える「週刊少年ジャンプ」だ。「バクマン。」の作中ではそんな最高峰である漫画雑誌を生み出す裏事情を赤裸々に見せる。常に新人育成に力を入れる「週刊少年ジャンプ」編集部では、作家は担当編集者に叩き上げられ、どうかすると担当編集者でさえ入れない上層編集員による“連載会議”によって新連載が開始できるか決定され、“徹底したアンケート至上主義”であるために読者アンケートで人気が落ちると連載打ち切りという憂き目に遭うというものだ。また、デビューさせた作家は専属契約を結んで他の出版社で仕事ができない形式をとっており、そのため冒頭でパロディに使ったように「○○先生のマンガが読めるのはジャンプだけ!!」という枠外の文句もお決まりのフレーズとして有名なのである。
「バクマン。」ではそんなヒリヒリした戦場とも言える状況が、「週刊少年ジャンプ」という雑誌名はもちろん、連載漫画も実名を織り交ぜて登場させてスリリングに展開されていく。作中で描かれる様子がすべて真実ではなくとも、「バクマン。」が連載されている実際の「週刊少年ジャンプ」の現状がまさに「バクマン。」の作中の中で繰り広げられているメタな仕組みだから、読者が興奮しないわけがないのだ。
とは言え、「バクマン。」はリアリティばかりを追求しているわけじゃない。“友情”“努力”“勝利”を謳いあげる「週刊少年ジャンプ」で連載している以上、面白くなくて人気がなくなれば打ち切りになる、すなわち「バクマン。」自体もそれだけ少年漫画のセオリーに則って王道のストーリー展開を見せるのだ。
まず、主人公2人は天才タイプではなく、まさに“努力”でもって“勝利”を目指して夢に向かって突き進んでいく。凡人からすれば2人とも十分天性の才能に恵まれているが、まったくの天才には見せないそのさじ加減はうまい。そして、見た目も性格もまったく違う2人が“友情”で結ばれていき、衝突したり壁にぶちあたったりして挫折もあるから、乗り越えられたときは愉快痛快!となるのだ。その過程に投入されるのは、リアルな存在ではなく少年漫画でウケそうなぶっ飛んだライバルで、実際には有り得なさそうなバトルを繰り広げるし、また、リアルな存在ではない美少女ヒロインとの切なくドラマチックな恋愛も用意されている。そうなのか〜!という新鮮な驚きを与えてくれるほどリアルでスリリングな裏事情を基盤としながら、少年漫画らしい目くるめくフィクションの物語が突き進んでいく。この現実とのラインが曖昧なメタフィクションが読者を「バクマン。」に引きつけるポイントなのだ。しかも、「バクマン。」にはカビ臭くしみったれたにおいが一切ない。漫画家裏話は「裏話」というくらいなので陰の世界のイメージがあるのだが、「バクマン。」は言うなれば陽の世界、メジャー感が半端ないのだ。天下の「週刊少年ジャンプ」で裏のせめぎ合いを暴露しつつ、少年漫画らしいメジャー感たっぷりのバトルアドベンチャーを見せる、というのが革新的だ。
映画版のオープニングはまず、「週刊少年ジャンプ」の編集部に主人公2人が原稿の持ち込みをしようとやってくるシーンから始まり、集英社のビルをバックに「週刊少年ジャンプ」がいかに凄いかが語られる。ちなみにビルは実物の集英社の自社ビルではないようだが、テレビアニメシリーズはNHKだからだと思われるが、集英社ではなく“遊栄社”、「週刊少年ジャンプ」ではなく“週刊少年ジャック”だったのが、映画版では原作通り実名そのままで登場し、のっけからテンションは一気に上がる。
さらに、日本では漫画の発行部数がどれだけ高いか、「週刊少年ジャンプ」は1994年に653万部を記録して日本の出版史上で全ての週刊誌・雑誌の売り上げ部数として最高記録となっていまだ破られていないなどといった事実が述べられ、見ているほうの体温はぐんぐん上昇。しかも、上がりすぎてその能書きもつい聞き逃してしまった。だって、スクリーンではフラッシュバックのように「週刊少年ジャンプ」の歴代漫画が次々と、「あ!『すすめ!!パイレーツ』だ、『ドラゴンボール』だ、『黒子のバスケ』だ!」と懐かしいものから新しいものまで現れ、「これこれ! 夢中になって読んだなぁ!」と心奪われまくるのだ。もうこの時点ですでに思うツボのようにハートを鷲掴みにされてしまった。…“2ページ”に続く(文:入江奈々/ライター)
・【元ネタ比較】2ページ/のっけから興奮しっなし!『バクマン。』の漫画愛と青春ドラマ
・【元ネタ比較】3ページ/のっけから興奮しっなし!『バクマン。』の漫画愛と青春ドラマ
『バクマン。』は10月3日より全国公開される。
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