デ・ニーロが普通のおじいさん役! それだけで見てみたくなる『マイ・インターン』は、シニア・インターン制度に応募し、Eコマースの会社で働き始める70歳の男性と若き女性社長の物語だ。
妻を亡くし、ニューヨークで独り身の現役引退生活を送る70歳のベンは公園で太極拳のレッスンに参加したり、習い事をしたりして過ごしている。決して孤独ではないが、もっと積極的に社会と関わりを持ちたいと考えた彼は、ファッション通販会社のシニア・インターンに応募する。コンピュータやインターネットについて基礎知識も怪しいレベルながら、長年培った経験と人柄の良さでたちまち、孫に近い世代の若者中心の社員たちに好かれていく。能力を買われたベンは、30歳で会社を立ち上げた女性オーナー、ジュールズのアシスタントに登用される。
成功を収めたキャリア女性キャラはハリウッド作品ではお馴染みのものだが、これまでは仕事に専念してきた独身という設定が多かった。アン・ハサウェイが演じるジュールズは幼い娘を持つ母親だ。そして家事と子育てに従事する専業主夫の夫・マットがいる。前世紀の典型的家庭像を男女逆転し、会社成長のために突っ走る妻を応援しつつも一抹の寂しさを抱えた夫、そんな両親の空気をかすかに察知している娘という構造だ。そこにジュールズの通勤の送迎役をつとめるベンが加わり、ここでも“亀の甲より年の功”的な頼もしさを見せる。
やはり見どころは、アクの強さがすっかり抜けてもなお魅力的なデ・ニーロの名演だ。前に出過ぎず、一歩引いた立ち位置から見守り、求められれば仕事の面でも恋愛、結婚についてでも的確なアドバイスを与える。同じ職場の熟年女性とのロマンスの兆しもあり……と、その都度、多彩な表情を見せるが、決してやり過ぎない。
猪突猛進のジュールズを演じるハサウェイもいい。仕事に邁進しながらも、家庭を顧みる時間ができない葛藤に苦しむキャリア女性のリアリティは、彼女の大ブレイク作『プラダを着た悪魔』で演じたヒロインの後日談のようにも見える。
オスカー俳優であるデ・ニーロとハサウェイのほかに、年の離れたインターンと意気投合する社員たちを演じる顔ぶれには、ハリウッドで注目の若手が揃っている。『きっと、星のせいじゃない』のナット・ウルフ、『ピッチ・パーフェクト』シリーズのアダム・ディヴァインといった期待の若手の活躍にも注目してもらいたい。
リタイアし、やもめ生活を送る男性の物語というと、ジャック・ニコルソン主演の『アバウト・シュミット』がある。老いの悲哀もじわじわと迫るあちらに較べて、『マイ・インターン』はかなり明るい。非の打ち所がなく、若い世代に理解と包み込むような愛情を示す主人公は出来過ぎなキャラではあるが、それは『恋愛適齢期』、『ホリデイ』などを手がけたナンシー・マイヤーズ監督の特性でもある。マイヤーズは過去作でも世代の違う者同士を交流させてきたが、そこにはいつも互いを尊重する姿勢が見てとれる。若者は大人を、大人もまた若者を頭ごなしに否定せず、見ていて心地よく、前向きな気持ちにさせてくれる。甘いばかりではない現実にも目を向けながら、すべてをほんの少しだけ理想的に描く。王道のハリウッド・エンターテインメントだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『マイ・インターン』は10月10日より全国公開中。
冨永由紀(とみなが・ゆき)
幼少期を東京とパリで過ごし、日本の大学卒業後はパリに留学。毎日映画を見て過ごす。帰国後、映画雑誌編集部を経てフリーに。雑誌「婦人画報」「FLIX」、Web媒体などでレビュー、インタビューを執筆。好きな映画や俳優がしょっちゅう変わる浮気性。
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