『ビューティー・インサイド』
『ビューティー・インサイド』は、一度寝て目覚めるたびに外見がまったく変わってしまう家具デザイナーの青年と、そんな彼がひと目惚れしてしまうアンティーク家具店の店員の恋の行方を描いたラブストーリー。そう書いてしまうと、とりとめのないトンデモ映画のように思えてしまうが、これがとてもよく練られたハートフルな娯楽作品に仕上がっている。同じ韓国映画で、70歳の老女が20歳に若返る『怪しい彼女』という作品が2014年に公開されて話題になったけれど、アイディアの斬新さでは本作も負けてはいない。
もともとこの映画はインテルと東芝の合作による視聴者参加型のソーシャル・フィルムが原案になっており、これが世界の広告祭で話題となったことから映画化の話が持ち上がったのだという。映画版を担当したペク監督は、広告の世界で先進的なビジュアル・アーティストとして知られる人物らしく、本作のトーンにもどこかスタイリッシュなCM作品を思わせるところがある。それは韓国からチェコのプラハへと移っていくロケーションの美しさや、登場人物たちのディティールへのこだわり、そして音楽の使い方などを見れば明らかだ。
主人公が木製家具のデザイナーという設定であるためか、本作にはアコースティック楽器を使ったオーガニックなサウンドトラックがあしらわれている。中でもデートで訪れたショップで高級オーディオ・システムから流れる「アマポーラ」に反応するシーンは、ふたりの共通する価値観を伝える印象的なシーンだ。
アコースティック主体でまとめられているだけに、エンディング・テーマとして流れる英国のバンド、CITIZENS!の「True Romance」のエレ・ポップ風味のサウンドがまた鮮やかに感じられる。2012年リリースの彼らのデビュー・アルバム『Here We Are』の冒頭に収録されたこの曲は、LGBTなどさまざまな愛の形を歌ったラブソングで、「本質的な愛を歌ったミディアム・テンポの曲」を主題歌として求めていたというペク監督の感性にジャストフィットしたようだ。実際、この曲をバックに繰り広げられるラストは、胸にグッとくるシーンでありながらも洗練されたMVのような趣もあり、監督の資質が十二分に活かされている。
本作はタイトルの通り“内面的な美しさ”を題材とした映画だが、だからといって「外見はどうだっていい」と開き直っているわけではない。性別、国籍、年齢など、すべてが毎日変わってしまっても、彼女を振り向かせるためにできるだけカッコよくありたいと願う主人公と、どうせ毎日変わるならキレイな顔の彼に会いたいという彼女の下心も包み隠さず描いている。ひとつ間違えれば薄っぺらになりかねないアイディアに、スタイリッシュな映像と音楽、そして飾らない心理描写で一定の深みを与えたペク監督の手腕に、今後も注目したい。(文:伊藤隆剛/ライター)
『ビューティー・インサイド』は1月22日より全国順次公開される。
伊藤 隆剛(いとう りゅうごう)
ライター時々エディター。出版社、広告制作会社を経て、2013年よりフリー。ボブ・ディランの饒舌さ、モータウンの品質安定ぶり、ジョージ・ハリスンの 趣味性、モーズ・アリソンの脱力加減、細野晴臣の来る者を拒まない寛容さ、大瀧詠一の大きな史観、ハーマンズ・ハーミッツの脳天気さ、アズテック・カメラ の青さ、渋谷系の節操のなさ、スチャダラパーの“それってどうなの?”的視点を糧に、音楽/映画/オーディオビジュアル/ライフスタイル/書籍にまつわる 記事を日々専門誌やウェブサイトに寄稿している。1973年生まれ。名古屋在住。
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