米国のドラマ界は、90年代はテレビ俳優と映画俳優の間に垣根があったが、近年は映画俳優がどんどんテレビに進出。映画監督もテレビドラマをプロデュースしたり、演出するケースが増えている。
世界市場を視野に入れたドラマは巨額の予算を投入しており、クオリティーも映画に引けをとらない。また映画はアメコミヒーローものやアクション大作が中心で、大人向けドラマが少なくなっている。だから俳優や監督がテレビに流れるという実情もある。
例えば、映画界からの引退を宣言し、現在はテレビドラマで活躍するスティーヴン・ソダーバーグ監督。『サイド・エフェクト』(13年)を最後に映画のメガホンをとっていない。テレビ映画『恋するリベラーチェ』(出演マイケル・ダグラス、マット・デイモン)を経て、ドラマ『ニック』の2シーズン、全20話の演出をすべて手がけている。さらに、アマゾン向けに『レッド・オークス』、有料チャンネルStarz向けに『ガールフレンド・エクスペリエンス』と2つの新ドラマで製作総指揮を担当している。
最近のドラマ活況の立役者のひとつがNetflixだ。『ハウス・オブ・カード 野望の階段』はデヴィッド・フィンチャー監督が製作総指揮と第1、2話の監督をつとめ、ケヴィン・スペイシーが主演と製作総指揮をつとめた、まさに「映画界の大物チーム」によるドラマだった。
以降、レオナルド・ディカプリオが製作総指揮にあたったネイチャードキュメンタリー『ヴィルンガ』、『マトリックス』のウォシャウスキー姉妹のプロデュースによる初のテレビドラマ『センス8』(『ラン・ローラ・ラン』のトム・ティクバや『Vフォー・ヴェンデッタ』のジェームズ・マクティーグなどが監督)を放送。今年はブラッド・ピット主演映画『ウォー・マシーン』や武侠映画『グリーン・デスティニー』の続編(ユエン・ウーピン監督)などが予定されている。
Netflixを追って他の動画配信サービスもオリジナルドラマ製作に力を入れている。アマゾンはトランスジェンダーを扱った家族ドラマ『トランスペアレント』がエミー賞を受賞した他、ウディ・アレン初のテレビドラマや、アマゾン製作初の映画でスパイク・リー監督の『シラク』などが控える。Huluはジェイソン・ライトマン監督がプロデュースするドラマ『カジュアル』や、J.J.エイブラムスのプロデュース&ジェームズ・フランコ主演のドラマなどが控える。
動画配信サービスに押され気味のケーブルテレビだが、『ゲーム・オブ・スローンズ』などで知られるペイテレビ局HBOは独自の配信サービスをスタート。また、ケーブルテレビのESPNや AMC、ディズニーチャンネルなどの放送をネット経由で見られるサービス「スリングTV」もスタートしている。(文:相良智弘/フリーライター)
相良智弘(さがら・ともひろ)
日経BP社、カルチュア・コンビニエンス・クラブを経て、1997年の創刊時より「日経エンタテインメント!」の映画担当に。2010年からフリー。
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