【映画を聴く/前編】
沖田監督のラブコールで実現した
細野晴臣の書き下ろし
ロケ地の広島で3月から先行上映されていた『モヒカン故郷に帰る』が、明日からいよいよ全国公開となる。監督は『横道世之介』の沖田修一、主演は松田龍平。前田敦子や柄本明、もたいまさこ、千葉雄大らが脇を固めるオフビートなファミリー・ドラマで、当コラム【映画を聴く】的には何と言っても細野晴臣の書き下ろしによる主題歌「MOHICAN」にまず注目だ。
細野晴臣が映像作品のテーマ曲やサウンドトラックを手がけるのは、特に珍しいことではない。YMOのリーダーとして活動中だった1982年にNHKの『人形劇 三国志』のテーマ曲を担当。ソロになってからもアニメーション映画『銀河鉄道の夜』や『紫式部 源氏物語』、『EX MACHINA エクスマキナ』、ビートたけし主演の『ほしをつぐもの』、犬童一心監督の『メゾン・ド・ヒミコ』と『グーグーだって猫である』など、さまざまなサウンドトラックを制作している。
今回『モヒカン故郷に帰る』に提供された書き下ろし曲「MOHICAN」は、細野ファンである沖田監督のラブコールによって実現したもので、監督から映画の世界観を伝えられた細野が作詞/作曲したオリジナル曲だ。2013年に全編カヴァー(セルフカヴァーを含む)でまとめられたソロ・アルバム『Heavenly Music』をリリースしているほか、木村カエラや中川翔子とのコラボ、CMのナレーションと音楽、そして松本隆トリビュート・アルバム『風街であいませう』での、はっぴいえんど時代の未発表曲の再録「驟雨の街」など、コンスタントに音源を発表している印象があるが、本人のオリジナル新曲としては実に4年ぶり。映画のテーマ曲という意味では『グーグーだって猫である』の「グッド グッド good good」(小泉今日子とのデュエット)以来7年ぶりとなる。
「MOHICAN」は、『Heavenly Music』やその前のアルバム『HoSoNoVa』で展開されたアコースティック・サウンドをさらにストイックに押し進めたヴォーカル曲。3分11秒のシンプルな曲だが、本人の歌とギターは生まれながらにしてヴィンテージの趣き。ボサノヴァの始祖であるジョアン・ジルベルトや、スタンダード曲「スターダスト」の作者で歌い手でもあるホーギー・カーマイケルらの音楽と並べて語りたくなるような円熟味を帯びている。大げさな演出を避け、あくまでも平熱で家族の悲喜こもごもを描いた本編のトーンとも地続きだ。(後編へ続く…)
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