前編/自然の脅威を浮き彫り。坂本龍一が『レヴェナント』にもたらしたものとは?

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坂本龍一
坂本龍一

【映画を聴く】『レヴェナント:蘇りし者』前編

イニャリトゥ監督も激怒!
音楽はアカデミー賞選考の対象外に

西部開拓時代のアメリカで、仲間の裏切りやクマの襲撃によって瀕死の重傷を負いながらも復讐のために蘇った実在のハンター、ヒュー・グラスを主人公とした『レヴェナント:蘇りし者』の日本公開が始まった。

レオナルド・ディカプリオ悲願のアカデミー賞主演男優賞のほか、監督賞、撮影賞のトリプル受賞を達成。音楽が坂本龍一ということもあり、公開前から日本でも話題となっていた作品だが、残念ながら音楽はアカデミー賞の選考では対象外となった。理由は坂本とそのコラボレーターであるアルヴァ・ノト、ブライス・デスナーの分担が曖昧で、誰がどの部分を担当しているかの明確な判断がつかないから。この結果に対してアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督が激怒、再検討を要請しているというニュースが報じられたりもしたが、いずれにしても極端にセリフの少ない本作においてサウンドトラックの果たす役割は大きく、映像に深みと余韻を加味するとともに、作品に通底する静寂感をいっそう引き立てている。

イニャリトゥ監督は映画監督になる前は母国メキシコでラジオDJとして活躍し、音楽全般に造詣が深いことで知られる。30年来の坂本龍一ファンだったらしく、2006年の『バベル』では「美貌の青空」「Only Love Can Conquer Hate」という既発の2曲を劇中曲として使用、本作で念願の本格的コラボレーションが実現した。「今を生きる音楽家の中でも敬愛する一人と作品をつくるという、大変な名誉と特権に恵まれることとなった」と、その喜びを語っている。いっぽうの坂本はイニャリトゥ監督のことを「自分が一緒に仕事をしたどの監督よりも耳がいい」と語り、その要望は驚くほどシビアかつ具体的だったという。

本作は坂本龍一にとって復帰後2作目の映画音楽となる。2014年夏に中咽頭がんを罹患したことを公表。1年近くにおよぶ療養を終えて昨年の8月に復帰した後、初めて世に出た作品は昨年末に公開された山田洋次監督『母と暮せば』の音楽だったが、実際には『母と暮せば』とこの『レヴェナント』の制作時期はかなり被っており、坂本にとっても2本の映画音楽を同時進行で制作するのは初めての経験だったという。それらと並行して自身のキャリアを振り返るアーカイヴ・シリーズ『Year Book』やソロ・デビュー作『千のナイフ』のリマスター再発、ライフワークとして取り組むCD+書籍の音楽全集『commmons:schola』シリーズの監修、恵比寿ガーデンプレイスで先日開催されたcommmonsレーベル10周年記念イベント「commmons10 健康音楽」のホストなどもこなしているのだから、そのワーカホリックぶりは療養前とまったく変わらない。(後編「メロディよりも響きを重視」へ続く…)

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