『ロック・オブ・エイジズ』
80年代のヒット曲満載で大ヒットしたブロードウェイ・ミュージカルを映画化した『ロック・オブ・エイジズ』。ロサンゼルスのライブハウスを舞台に、ロック・シンガーを目指す若いカップルとカリスマ的ロック・スターを描くアメリカン・ドリームの物語だが、この映画はメイン・テーマ以外のところにお楽しみがつまっている。
お話は型通り。1987年、スターを夢見て都会にやって来た男の子と女の子が出会い、恋をし、それぞれが挫折を味わうが……、という風に進んでいく。冒頭、ヒロイン、シェリー(ジュリアン・ハフ)が長距離バスでハリウッドのど真ん中に降り立つ。ロケーションと言い、本来ここで彼女を迎えるに相応しいのはガンズ&ローゼズの「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」なのだろうが、実際はデイヴィッド・リー・ロスとポイズンをマッシュアップした楽曲が流れ、能天気なほど明るいムード。要は“ロック”ではなく、ミュージカルにしやすいヒット曲に舵を切った選曲なのだ。実際、87年にL.A.のロッククラブでこんな曲を演奏したら袋叩きに遭うだろうという曲のオンパレードだが、この際、組み合わせの妙を楽しめばいい。
シェリーは伝説的ライブハウス「バーボン・ルーム」で働く青年・ドリュー(ディエゴ・ボネータ)と知り合い、一緒に店で働き始める。一応この2人が主役なのだが、何とも垢抜けないリアルな普通っぽさを強調し過ぎで、記憶に残らない。だが、物語や主役がパッとしなくても、問題なし。これは、彼らが出会う“ロックの神”ステイシー・ジャックスに扮するトム・クルーズの怪演を鑑賞する映画なのだから。
この人は『マグノリア』や『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』など、イカれた役を振られると異様に張り切る。今回も、新人同然の2人を相手に大人げないくらいの気合いの入れようで、歌はもちろんロックスターらしい身のこなしも完璧。鍛えすぎて、結局見た目が一番似ているのはグレン・ダンジグ(知らない人は画像検索を!)になってしまった点も含めて、笑えると同時に感動的なまでの貢献を見せてくれる。衝撃的な初登場から、観客を前に実に気持ち良さそうなライブ・パフォーマンス、お下劣コントなラブ・シーンまで、強烈なパワーで押し切る。演じている本人は50になろうというのに、神輿を用意すれば、進んで乗る。スターはこうでなくちゃ、と感心するばかりだ。
ステイシーの造形は、アクセル・ローズとマイケル・ジャクソンのコンビネーションに、トム本人が内に溜め込んできた毒を吐き出したかのようだ。“スターであること”を誰よりも理解している彼だからこその自嘲や願望がうかがえ、説得力がある。
主役2人には本当に気の毒だが、この映画は周囲に芸達者を用意し過ぎた。経営難の「バーボン・ルーム」のオーナーとその右腕を演じるアレック・ボールドウィンとラッセル・ブランド、“ザ・業界人”の臭みをまき散らすステイシーのマネージャ―役のポール・ジアマッティ、アル・ゴアの奥さんみたいにロック排除運動に勤しむ新市長夫人役のキャサリン・ゼタ・ジョーンズ。そして、ジャーニーを歌うメアリー・J・ブライジ。ベテランたちの怪気炎に、三池崇史監督の『愛と誠』を思い出した。往事を懐かしむ大人たちは洋の東西を問わず、少なくないようだ。(文:冨永由紀/映画ライター)
『ロック・オブ・エイジズ』は9月21日より丸の内ピカデリーほかにて全国公開される。
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