こだわりのディティールにリスペクト感
モンキー・パンチ原作によるコミックをもとに、アニメ化したテレビシリーズが1971年から放送開始され、いまだに国民的な人気を誇る『ルパン三世』が映画化された。キャスティング発表時はファンからブーイングが続発し筆者も不安をおぼえたが、元ネタのイメージを崩すことなくそれでいてイメージに飲まれすぎることもなく、ルパン三世役の小栗旬をはじめ、出演者それぞれが健闘を見せている。痛快なアクションをこなして小気味よく立ち回り、特有のムードを作りだすことにも成功していると言っていいだろう。
・【元ネタ比較】前編/意外にも今夏コミック映画化作品群でイチ押しの出来『ルパン三世』
出演者だけでなく、黄色くて小さいイタリア車のフィアットで紙幣をまき散らしながら逃走するといったルパン三世ではお馴染みのシーンもディティールにこだわって描かれ、全編に元ネタへのリスペクトを感じる。ファンの間では印象に残るシーンとして“美味しそうな肉団子スパゲティを食べるシーン”が定番で挙げられ、宮崎駿監督による劇場版『ルパン三世 カリオストロの城』に出てくる肉団子スパゲティが知られているが、本作でも肉団子のエピソードが出てくる。モンキー・パンチは『〜カリオストロの城』に批判的だと噂されるが、今回の肉団子は『〜カリオストロの城』の肉団子スパゲティへのオマージュかと推測するのは深読みしすぎだろうか。
また、基本中の基本だが、ルパン三世は変装も得意だ。本作では東京ドームシティアトラクションズの「ルパン三世〜迷宮の罠〜」ばりの変装を、同アトラクションばりに忘れた頃に見せてくれるのも一興だ。他にも、いかにも悪そうな悪の親玉や、ご大層な異名のついたお宝といった嘘くさいアイテムも登場。まったくリアリティのない設定でも白けることのない世界観を構築している。
見るなら吹き替え版がオススメ
監督は『あずみ』や『ゴジラ FINAL WARS』を手がけ、ハリウッドでも活躍する北村龍平。薄っぺらくはあっても決して安っぽくはない、嘘臭くて無国籍な空気感を作り上げている。ちなみに台湾や韓国、タイなど多国籍なキャストと日本人キャストが英語でセリフを交わすシーンが多い本作は字幕版も吹き替え版もあるが、吹き替え版のほうがおすすめ。どんな容貌の外国語圏の人間であろうとベラベラと日本語を話すアニメの『ルパン三世』の雰囲気が味わえるからだ。
そして、メインテーマを担当するのは布袋寅泰。ルパン三世にロックかぁ……と心配していたが、なんと流れてきたのはジャジーなナンバー。そういや、ロックの聖地・ロンドンに移住した布袋寅泰が「ロックギターのフレーズには飽きた、やっぱジャズだな」などと拍子抜けなつぶやきをして話題になったこともあったっけ。テレビアニメシリーズを放映する日本テレビの協力を得られなかったため使用できなくなったらしく、誰もが口ずさめてしまうあの有名なテーマ曲がないのは物足りないが、“なんとなくルパン三世っぽい”ムードいっぱいの音楽で勘弁しておこう。
難点を言えば、“女好きなルパン三世がチラ見するフライトアテンダント”という設定で小栗旬夫人の山田優が出演していることか。“女好きのチラ見顔”は地でやれるだろうから役作りが要らなかったかもね〜とワイドショーネタがよぎってしまったではないか。せっかくなかなかいい出来なのに、世界観壊してまでサプライズ出演要らねっ!と脱力してしまった。そこだけが気になるぐらいで、意外にもこの夏のコミック元ネタの映画化群のなかで個人的にはイチ押しだ。(文:入江奈々/ライター)
『ルパン三世』は8月30日より全国公開される。
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